内閣府(岩田一政試算)、失業率は7%リスクの展望とその問題点


 経済財政諮問会議でようやく本格的な今般の世界同時不況における日本の現状についての分析がいろいろ検討されだしたようです。正直にいえば、きわめて遅い議論の展開ですが。また今回も白川日銀総裁日本銀行の弁明に終始している形です。


 それはさておき報道などで注目されたのは、岩田一政議員(内閣府経済社会総合研究所長)の「失業率7%リスク」という見解でしょう。該当部分を以下に長いですが引用しておきます。

基本的にこのブログでも紹介してきたもの(ここここここ)や、拙著『雇用大崩壊』での見解とほぼ同じです。

http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2009/0325/shimon-s.pdf

(岩田議員) 今の吉川議員の説明に補足させていただきたい。雇用及び失業への影響という観点から、今の吉川議員の御説明に私の解釈を少し付け加えさせていただきたい。最初に、9ページの参考4をごらんいただきたい。今の民間の予測では、現在、4.2%程度の失業率が 2009年には5.3%に上がるというような予測をしている。2010年のものはまだ出ていない。この今の予測は少し楽観的過ぎる。失業率の数字が5.3%ぐらいで収まるとは思われない。結論を先に申すと、2010年の後半か末ぐらいには7%ぐらいに上る可能性がある。 どうしてそう考えるかということだが、戻っていただいて参考2という、先ほどの実質GDPの数字をごらんいただくと、2007年度のGDPが 562.8兆円である。それから、2009年度には、今、民間の予測では 523.9兆円という数字になっている。その差を取ると約 40兆円ある。ところが、GDPギャップは潜在のGDPとの差なので、この間に2年間、実は潜在成長率の方は1%強伸びているので、2%強をこの 40兆円に加えないと、GDPギャップの大きさにはならない。つまり、加えると 50兆円。この前のヒアリングで河野龍太郎さんが 50兆円をうめるのは無理だとおっしゃったのは、恐らく、それと整合的な数字なのだろう。
OECDの最近の研究でも、やはりGDPギャップが10%ぐらいになるものである。10%ぐらいになるということは、これを失業率に換算すると、2月の会合で申し上げたが、大体3で割ればよろしい。そうすると、GDPギャップが10%マイナス幅がふくらむということは、失業率で言うと実は3%ぐらい上がることである。そうすると、今大体4%だから、どう考えても7%程度に上がっていく。だから、この参考4をもう一度ごらんいただくと、この赤で描いてあるほどは勢いよく上がらないかもしれないが、今の民間予測よりはかなり上回る速度で、失業率が 2010年の末ぐらいにかけて7%近くに上がっていくのではないか。
このときに、それでは、政策としてはどう考えるべきかということがやはり問題。失業率は非常に大事な数字。失業する人がこれだけ増えてしまうことに対し、やはり痛みを感ずるべきではないか。ちなみに、3%増えるということは、ほぼ 200万人に相当する。私、以前にも 200万人ぐらい雇用を創造することを考えたらどうかと申し上げたのは、実はそういう意味があり、200万人ぐらいを創出するようなことをすれば大体いいかなとの考えで、そういうことを申し上げたことがある。
3%上がるということだが、過去の失業率で最高だったのは 2002年あるいは 2003年で5.5%あった。景気が底を打ってから、実は1年半から2年ぐらい遅れて失業率がピークに達する。そのときに5.5%を上回るようなことを放置するのは、やはり政策的にはまずい。そうすると、7%から5.5%を引くと、1.5%分の失業率を何とか縮める、圧縮することがどうしても必要なのではないか。
その1.5%分の失業率は、GDPの大きさで言うと、また、これは3をかければいいので4.5%分ということになる。GDPギャップは10%あるのだが、そのうち4.5%分ぐらいの実質GDPを上げる努力をすればよろしいということになる。
アメリカが、今年と来年の2年間でそれぞれ2%分ぐらいの財政措置を取るべきだということをG20等でおっしゃられ、合わせると4%程度になる。ところが、IMFの推計によると、日本がこれまで取った対策で、実は 2009年は既に1.4%分頑張っている。翌年にも0.4%分ある。そうすると、実は1.8%分は、IMF等の計算によれば、既に政府は対策を取っているということになる。今、4.5%分を達成しようとすると、既に取っている分を除けば、残りは2.7%分だということになる。これは 13.5兆円ぐらいになる。だから、国際的に2%増やすことが求められているとすれば、私は 13.5兆円分ぐらいのGDPを上げるような努力をする必要があるというのが1つである。
ところが、この民間の予測は少し国際的な要請とずれがあるところがあり、既に採用された 12兆円分を踏まえた上で、この予測を出している。そうすると、実際に失業率を下げるためには 13.5兆円では足らなくて、4.5%分のGDPとすると、22.5兆円ということになる。そうすると、結局、求められている措置は、13.5兆円から 22.5兆円ぐらいの間のレンジで、実質GDPを上げるような努力を何かしていくということである。
今、申し上げたのは、財政だけでやろうとすると、そういうことがある。ところが現実には、労働市場でのいろいろな教育訓練とかということで、例えばミスマッチを減らしていくことがあり得る。それから、金融面でも金融政策でいろいろ政策を取っている。だから、どのくらい、これが失業を減らすかどうか量的に示すのは難しい。だから、そちらも考えれば、今、考えられる、持ち上げるべきGDPというものは恐らく、13.5兆円ぐらいから 22.5兆円のどの辺かのレンジというようなものが、失業率が7%に行かないためにどうしても必要なのではないか。


 この岩田氏の失業率7%リスクについては、私たちと類似の観点である。しかし上記の発言とその処方において、見逃せない「問題点」がある。それは7%リスクを避けるために総額「13.5兆円から 22.5兆円ぐらいの間のレンジで、実質GDPを上げるような努力」としているが、これは過小である。


 なぜなら発言をみてもわかるように、なんと過去最悪の失業率の5.5%を上回せないためのものでしかないからである。このような前提はまったくおかしい。これでは現状で4%台前半に悪化している失業率は不可避の産物であり、また5.5%まで悪化しても何も政策対応はしない、といっているにも等しい。これはある種の官僚的なマインドともいえる。過去の最悪記録だけは避けたいという前例踏襲の思考に近い。「そのときに5.5%を上回るようなことを放置するのは、やはり政策的にはまずい。」という発言は、政策当事者のひとりとしてはあまりに非常識ではないだろうか?


 では実際にはどうすべきか。GDPギャップは10%という岩田推計をもとにすれば、IMF推計のもとにすでに1.8%分は頑張ったことになる(失業率7%の1%未満の引き下げ効果しかない)。残りはまだ8.2%ある。金額にすると40兆を超える額を埋める必要がでてくる。岩田推計でもである。


 G20での公約予測の2%にすでに行った1.8%がまったく含まれていないと邪推?しても、まだ政府のまったく空白の対応部分が30兆近くの規模で残っていることになる。


 岩田氏の指摘した雇用のミスマッチ解消や教育訓練に短期間での雇用創出効果はさほど見込まれない。そんなのは過去の経験が端的に物語っている。総需要低下を防ぐのは、やはり財政政策と金融政策、その協調でしかない。


 それを埋めるのは政府紙幣か無利子免税国債か、それとも日本銀行国債の直接買いオペによる財政余剰の創出か、いずれにせよいくつかの選択肢があることはあるのだが、それを行う政治的な決断が決定的に欠けている。


 繰る返すが、政権内で岩田氏のような7%リスクへの警鐘は稀なことは確かである。その意義は大きい。しかしその対応のベースには、5.5%は放置=自己責任 という見逃せない欠点もあることをここで指摘しておきたい。