『ウォッチメン』バブルを検討する

 「検討する」というほどじゃないですが。id:boxmanさんが寄稿しているというので人生史上初めて『映画秘宝』を立ち読みではなく購入しました。今月号は、『ウォッチメン』特集。アラン・ムーアが原作から名前をはずしてしているにもかかわらず(笑)、便乗してのアラン・ムーア祭りです。


 すでに映画の感想は昨日書いたのですが、一言でいうと「半クソ」。原作への僕の評価は、平均よりいい程度。さすがに全体が古臭いし、テーマ自体が「アメコミヒーローの正義とは何か」みたいな話で自己満足横溢すぎ、というのが僕の感想。

 さて『映画秘宝』ですが、boxmanさんの寄稿「映画『ウォッチメン』にポリティカルな啓示はあるか?」というものですが、簡単にいうと「そんな難しいことザック・スナイダーが考えてるわけないじゃん。漫画オタクのために創った漫画オタクの映画」というまさにストレート球そのもの。ほぼ僕の感想に近い。

 このザック・スナイダーは映画『300』の監督だったけど、このブログでも昔書いたように原作が好きじゃないので映画はみてない。しかし勉強だ、と思っていま借りてきましたが 笑(ちなみに一緒に借りてきた「つみきのいえ」は感涙もの)。

 しかし横のコラムの光岡三ツ子氏の「近年はヒーロー映画が成熟期にあるといっていいと思うが、リアルな暴力、死、セックスは過激すぎる描写とされ、タブー視されたままだ。…映画はそのタブー破りを踏襲し、またそれらを“クールに”映像化することで、商業映画として成立させた」とあったのには釈然としない。(レーティングみたいな基準は脇においとくと)例えば『バットマン ダークナイト』は死と暴力満載だし、『スパイダーマン』の逆さKissの方が今回のアーチ(梟の形をした飛行物体の名前は確かこれ?)の中でのセックスシーンよりある意味エロである。いや、暴力も死もセックスのシーンも今回の作品には映像的断片としては豊富なのかもしれない。しかし物語の中で活きていないのである。映画の中を横切る広告みたいなものであろう。例えば『ブレードランナー』で空中を浮遊している広告映像みたいなものである。というかそれだけの映画でしかないわけだが。

 柳下殻一郎氏の「アラン・ムーア〜ヒーローの根源を問うた男〜」は、これはなかなか興味深いエッセイである。不勉強というか情報オンチで知らなかったが『フロム・ヘル』を翻訳されていることを知り驚愕である。目を悪くされないことを祈ります(僕は100ページいかず字の小ささに挫折したので)。このエッセイが興味深いのは、僕が上に書いた「アメコミヒーローの正義」を、アラン・ムーアとともに柳下氏がともに深めようとしていることだ。

 「だが多くの読者を驚かせたのは、そのどれでもなく『ウォッチメン』が突きつける容赦のない結末だろう。それはひとつの論理的帰結だった。もし本当にスーパーヒーローが存在したら、世界はどうなるか? 悪と戦う正義のスーパーヒーローが本当に人のためになる存在なのか? 誰もが問おうとしなかったことを、ムーアは真正面から問いかけた」

 非常に適確に、コミック版の『ウオッチメン』のテーマをまとめている。しかしそもそもこの「アメコミヒーローの正義」なんてものを真剣に突き詰めて考えること自体、本来は馬鹿らしいのだ。いわば大法螺を真剣に考えてしまうとどこに突き抜けるか? それは一種の狂気すれすれの道でもある。

 もちろん多くの人はそんな狂気の道にいくことはできない(というかほとんどの人はそんな道の存在に興味をもてない 笑)。したがって中途半端に撤退せざるをえない。「アメコミヒーローの正義」を突き抜けて考えることができなかった粗製乱造は数多くある。それは「ヒーローって何?」という悩めるヒーロー像とでもいうものだ。僕はこの悩めるヒーローというアメコミの定番らしきものには本当に辟易している(このブログのどこかにも書いたけど忘れた)。柳下氏の論説を読むとムーア自身もそういう悩めるヒーローに賛同しかねているようだ。

 ではムーアはどこにいったのか? 意外と彼の身近な人たちの証言を聞くとふつうの人みたいな感じがするのだが(笑)、柳下氏はムーアの発言をひいて、「スーパーパワーはいらない。ふつうの人が素晴しいということだ」というちゃぶ台返し 笑 に行き着くわけである。


 な〜んだ、と思うだろう。まさにな〜んだなのだ。「アメコミヒーローの正義」を突き詰めて考えれば、このな〜んだ、に行くか、あるいは本当にどっかの世界に逝くしかないのではないか? 

 そして多くはそんな問題を考えることすら気がつかず、とりあえずスジがわかって何やっているかわかる映画や漫画を望むだろうし、それ以外は中途半端に考えるものほど「悩めるヒーロー」に悩んでしまう(萌えてしまる)にちがいない。

映画秘宝 2009年 05月号 [雑誌]

映画秘宝 2009年 05月号 [雑誌]

 ちなみに僕はアラン・ムーアの作品をこれ以上語れるほど読んではないことを白状せずにはおれない。せいぜい10作ちょっと*1。あとムーアについてふれた本を2,3冊。その中で好きなのは、V FOR VENDETTA 、リーグの1、2、と2.5、それにTop10である。ムーアについてふれた本ではid:boxmanさんに紹介された以下がムーアの人柄を知る上でもいいかも。まあ、またムーアの作品をもっと読んだら感想も変わるかも……いや、たぶん変わらない 笑

The Extraordinary Works Of Alan Moore: Indispensable Edition

The Extraordinary Works Of Alan Moore: Indispensable Edition

*1:映画秘宝で紹介されている『LostGirls』はブログでも紹介したけどともかく分厚くて読みずらい。読んでもあまり面白くなかった。『Swamp』は面白い。『The Killing Joke』は邦訳に収録されている作品は結構面白い。原書では『DC Universe』とかなりかぶるけど。『From Hell』はともかく字が細かすぎ。邦訳待望! 『The League』は1、2と面白く、いあま2.5を途中まで読んでるけどこれも結構好きかな。ミナが好きw。『Top10』はこれはいい。V FOR VENDETTAは無ムーアの思想性みたいなものを一番感じるしムーアの作品の中ではもっとも好き。『PROMETHEA』、この作品も不可思議な味わいでおススメ。『ALBION』どんなのか忘れた 笑