ポール・サミュエルソン「大規模な財政出動が急務 GDP30%減少のリスクも」

 一足早く読んでる『週刊東洋経済』。今週は春らしく経済学超入門として現場のエコノミスト(しかし現場の、というのも考えてみれば変な修辞ですな)の経済のかんどころを解説する記事が続く中で、御大ポール・サミュエルソンの激白*1

 要点を書くと

1 今回の不況は30年代の大恐慌なみ

2 バンクホリデーなどの銀行統制は恐慌脱出に効果なし

3 大型の財政出動が効果があるが、ただし現在の経済は不透明度がある(1.過剰なレバレッジを支えた金融工学の発展、2.野放しの企業ガバナンス)。野放しの企業ガバナンスこそ今回の不況の原因。

4 バーナンキの年内回復シナリオではなく、2〜3年回復に時間がかかり、しかもGDP30%減少のリスクある。失業率は11〜12%

5 大恐慌の教訓はルーズベルトの財政政策が効果があったことであり、もっと大規模にやれば景気回復はより早かっただろう。共和党側のルーズベルト大恐慌からの回復を遅らせた、とする主張とは距離をおくべき。

6 信頼すべき研究は、Brown, E.C. (1956), “Fiscal Policy in the Thirties: A Reappraisal(AER)

7 教育の失敗を回顧(教え子が財政政策の効果、流動性の罠、貯蓄のパラドクスに無関心)

8 オバマバーナンキの政策への評価は? →適切。もっと大規模にもっと長い期間やるべき。オバマの政治的手腕に危機回避は依存。

9 保護主義が進行するだろう(懸念もしているが失われた雇用を確保する動きは自然でもある)。しかし保護主義自体は不況をそれほどは悪化させない。

10 30年代前半はルーズベルトのおかげで回復。それが38年のヘンリー・モーゲンソー財務長官による社会保障税の実施(増税→消費減)のため不況へ。しかし戦争の軍需拡大により39年には回復。


 これをみると今日の日本のドマクロ経済学のいくつかの支脈が、サミュエルソンの恐慌理解にかなり依存しているのがわかる。例えばサミュエルソンが弟子たちが大恐慌の経済学を忘れた、とでもいいたげな発言をしているのだが(槍玉はマンキューなど)。例えばバーナンキやマンキューらの理解とサミュエルソンの理解との違いとしては、2の効果をめぐって。3も金融政策の役割が不鮮明であることが、バーナンキらと異なる。9の保護主義はミクロ的な合理性からはやむをえず、またそのマクロ的な悪影響も思ったほど少ない、とする発言は日本の一部の安易な「知識人」たちの支持=保護主義支持をうけそうで怖いのだが。10の戦争が最終的に不況を解決したというのはどうなのか? 実際にサミュエルソン自体も30年代前半の財政政策の効果を支持しているのであるから、戦争がなくても、財政政策を大規模に行い持続すれば大恐慌は戦争がなくても解決したことになる。しかし日本ではどこかで論理が欠落して、文字通りに戦争が大恐慌を解決した=だから超大規模な景気対策は悪、あるいはアメリカは悪みたいな話につながるようだ。

*1:ロバート・ソローもあるけどほぼ似たような趣旨の発言なので省略