駒村康平『大貧困社会』

 ここ数年読んだ新書の中でもベスト5に入るきわめてすぐれた著作。構造改革路線(小さな政府と規制緩和=トリックルダウン方式)への対抗軸を出しているし、本書ではほとんど重視されていないが、マクロ経済政策(リフレ政策)とも調和できる見解だと思う(マクロ関係が弱かったり間違っているように思うがそれはこちら?で修正できると思う)。

 僕はリフレ政策でマクロ経済政策を転換しないと、いかなるセーフティネット政策のレジーム転換も失敗すると思っているので、その意味でも本書のような「大きい政府、格差縮小」を目指し、かつ世代間対立を深刻化させないでソフトランディングするためには、いまの(資産価格をターゲットにした日本銀行の事実上のデフレ政策を転換する)リフレ・レジームが必要だと考えている。

 ちなみに日本ではなぜか誤解されてるけれども、小さい政府=規制緩和というのは間違った認識で、労働者や社会的弱者を厚く保護する=大きい政府と積極的な規制緩和は矛盾しないんですよね。


 例えばこのブログの過去のエントリーなどはそのいい参照になるでしょう。
 アメリカとは違う経済モデルは可能か?http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20070801#p1
 小宮隆太郎の60年代後半スウェーデン経済論http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20070127#p2


 後で本書の内容を少し紹介するかも。(不況対策として正規労働者を既得権者として徒に弾劾する一部の論者=間違った雇用流動論者に辟易している人たちなど)読んでない人はすぐ読んだほうがいいでしょう。

大貧困社会 (角川SSC新書)

大貧困社会 (角川SSC新書)

本書の内容紹介

 本書は、小泉構造改革の経済思想(小さな政府、トリックルダウン仮説→「規制緩和と小さな社会保障により、ただ「不安」煽って、就労意欲を高めようとした小泉改革、という認識を本書は示す)が、非正規労働者の激増など、格差社会を招いたことで事実上破綻した、という認識に立つ。それに替る代替的な思想(大きな政府と格差縮小、貧困の解消)を目指すセーフティネットの拡充をその柱にする。非正規労働者の激増が、年金、医療保険、失業保険制度に空洞化を生み出しているとして、その対策のために働いているもの(原則、国民の)すべてが所得に応じて負担を担い、そして給付をうける制度の構築を目指す。ただ制度移行のコストを重視するために現行の制度から移動がスムーズなもの(税財源の最低保証年金+所得比例型の厚生年金、生活保護制度の若い世代への一時的セーフティネットへの機能転換など)を目指す、というものである。非正規労働者の激増が、いかに日本のセーフティネットの未整備をさらに悪化させていったかが、多様な証拠とともに説得的に議論されている。