さらに「現実」からの疑問は深まる

数日前にこういうこと書きました。

小野先生の理論はいいんだけれども、小野先生の体系って一種のガラパゴスみたいなものでしかないんじゃないかなあ。すでに理論の進化というよりも現実の進化に適応できてない、というか (中略)
 いま素朴な観察によれば、明らかにドル円レートでとりあえずみておくと、円高ドル安に触れると株価はほぼ下落基調になる(不安定に変動する)。これはかなり長期に観察できる現象になっていて、(ここは素朴な観察とはかぎらないが)しかもアメリカと日本の政策金利の水準ではなく金利の方向性に反応しているようだ。これは日本がデフレ方向に引張られていくとみてもいい。

 ところが小野開放体系では、確か円高ドル安になれば株は上昇してしまう。いや、株だけでなく物価水準だったかな。円高ドル安傾向が定常的な(定常的かどうか、ここ曖昧)インフレ状態と確か共存してしまうんじゃなかったかな。これってまったく現実と適応してないように思うんだよね。

 と書いて、申し訳ないけれども群馬にいかないと小野先生の『景気と国際金融』がないので間違ってたら小野祭りをやると宣言しました。そのエントリーに対して、小島先生が気分を害されたようで、たぶんご自分の小野理論の理解の盲点をつかれたということもあるんでしょう*1

 で、応答がきていることにいま気がつきましたhttp://d.hatena.ne.jp/hiroyukikojima/20081229/1230526509。ただやはり小野本がないと正確なレスはできませんが、まさに小島さんの小野理論の理解はやはり「現実の進化」に適応していないし、小野本の小島さんが引用した部分もそうだと思った次第です。

以下は小島さんが引用した小野先生の本の一部

現在、米国は好況にあり、高い消費水準を維持している。そのため失業率も低く、物価はインフレ気味に推移するとともに、利子率も高い。他方日本では、不況が続いて消費水準も低迷しており、全体の完全失業率は4%から5%の間を推移して、米国を上回っている。(中略)。こうした状況下では、賃金も下がり気味で、利子率も低い。また、米国の金利が日本の金利を上回っているため、為替市場のストック調整による円高ドル安傾向が続き、円資産の不利を補っている。

 このとき、日本の物価上昇率は米国よりも低いため、為替レートが変化しなければ、日本製品が相対的に安くなっていく。したがって、日本の国際競争力が、徐々に米国のそれを上回ってくるはずである。ところが、これと同時に円高が進むために、日米の国際競争力は変化せず、そのまま日本では不況が、米国では好況が続く

 僕は小野開放体系が「現実の進化」に適応していないといいました。そしてこの小島さんの引用により確信を深めました。

 この引用部分からわかることは、日米両国の名目金利差による円高ドル安が、日本の国際競争力(不況)<米国の国際競争力(好況)をもたらすという理論です。一種の構造不況(米国には構造好況)論です。

 (A)さて僕の引用では曖昧だった「確か円高ドル安になれば株は上昇してしまう。いや、株だけでなく物価水準だったかな。円高ドル安傾向が定常的な(定常的かどうか、ここ曖昧)インフレ状態と確か共存してしまうんじゃなかったかな」には、この小島さんによって答えが出されてました*2

 物価ではなく「円高ドル安と株の上昇」がおかしいと田中は考えるべきだった、ということです。

 小野先生の引用では「また、米国の金利が日本の金利を上回っているため、為替市場のストック調整による円高ドル安傾向が続き、円資産の不利を補っている」とあります。

 円資産は日本株・日本国債などの資産を指します。いまは円高ドル安が続くと日本株は下落しています。

 また小野先生の説明とは異なり物価上昇率は日本の方が米国より低いままですが、日米間の名目金利の格差が縮小すればするほど、円高ドル安にふれ、日本株も下落(米国株も下落)し、そして両国ともに不況です。

 すでに書きましたがこの点で小野先生の開放体系が「現実の進化」に適応しているか甚だ疑問です。

 (B)そもそもこの引用でも「国際競争力」の相対的な高低がそのまま好況・不況と等値されているのも理解不能です。また「国際競争力」自体が意味不明なのはいうまでもありません。また為替レートの高低がこの「国際競争力」に影響を与えているようです。これもどんな理屈なのでしょうか。

 ここらへん小島さんはちゃんと理解されて僕の発言(=小野開放体系は現実の進化に適応していない)を正しているのでしょうか? 僕にはただ単に彼が感情的になっているだけにしか読めないのです。

 というかやはり僕が原書を読まないと正直、ネタどまりでしかないわけで。あくまでも小島さんのエントリーを読んだ感想ということで考えてほしい。

(付記)はてブで稲葉さんが「小野先生は円高のとき株安になるしデフレだとはっきりいってる。」としていますが、これは(日本の物価上昇率は米国よりも低いため)という仮定のときに為替レートが変化したらどうなるか(つまり円高ドル安)の場合をますます支持しがたくしている。なぜなら小野開放体系では、物価上昇率は仮定から一定なので、為替レートは名目金利差で決まるようだ。名目金利差がひらけばひらくほど円高ドル安。そのとき稲葉さんのいうように株安が起きることは、現在の「現実」を説明していない。最初のエントリーから書いていることだが名目金利差が縮小している状況で株安が加速している。

*1:http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20081226%23p1 ここに小野開放体系の理解が不足していることが「僕の弱点」という小島さんのはてブがありましたがいつのまにか消えています こういう種類の修正は残念なことです

*2:とはいえ小島さんの引用ではなくやはり原書を読みたいけども