ここ2、3日は伊豆にいったり帰宅してからもあまり時事的な話題に乗れないでいたのでちょっとした浦島状態。もちろん伊豆でもネットもテレビも新聞もなにもかも利用可能だったんだけれども関心の方向が別な領域(医療と食)に向かっていたのでまだ十分ふだんのモードに切り替わっていかない。
ただようやく金子勝・アンドリュー・ディビットの『世界金融危機』や今日の朝日新聞の一面を夜になって(笑)読んでから戦闘モードというものに切り替わった気がする(前者についてはまた改めて触れたい)。朝日新聞の一面は各国首脳がひな壇に並んで「G20際立つ新興国」というものだった。従来の間口の狭い先進国サミットに代替して、中国などの新興国が発言力を増していく、という構図である。そして政治的に主導しているのが欧州であり、日本の発言力は初めからないか(笑)喪失されているような印象で書かれている。これにはドル基軸通貨の終焉だとかが重なるのだろうか。
ところで僕がこの新聞を読みながら思ったことは、欧州(ユーロ圏と北欧・東欧)の衰退と新興国の遅れであった。例えばユーロ圏はECBの利下げ転換とその継続の見込みからユーロは下落傾向にあるといっていい。金融危機でアメリカに匹敵する規模で金融システムが痛んでいることが明白なことに加えて、(日本と同様に)利下げならぬ利上げスタンスを放棄しきれず、大胆な緩和措置を行うことができていなかった。むしろ利上げスタンスが日本と同様にユーロ圏の不況入りを早めていたのであり、今回のG20で必死な調整役をしたのならばそれはユーロ圏の経済的ダメージの深さとユーロ圏独自の制度的対応に限界が来ていることのなによりの象徴であろう。その意味では一部でいわれているようにドル基軸通貨の終焉ではまったくなく、それに代ると目されているユーロの「基軸通貨候補終焉」ともいえる事態ではないだろうか?
さらに新興国経済の台頭も微妙である。グローバル貯蓄過剰というのは確かに新興経済からアメリカへの資金の流入を現象面では見せている。だから朝日新聞の一面のように中国や産油国が世界に不足しているお金をつぎこみ、それが今後の世界の「実力」の構図であるかのような印象を与えるのもイメージ的にはわかりやすいのだろう。しかしこれはすでに多くの論者が指摘しているように新興経済圏が自国に十分な投資機会が見出せないことの半面でしかない。
アメリカ経済よりもこれら新興経済圏が今回の金融危機を契機にして世界経済でその「実力」に見合った発言権を得たというのは政治的な現象としてはある程度いえるかもしれないが、その過大評価は禁物である。これらの新興経済圏がアメリカ経済以上の投資機会を得ているかといえば現状において事態はまったく逆であろう。
これも各国とのクロスレートをみれば明らかになる。例えばBroadや個別の対ドルレートをみると新興経済圏ほかの通貨に対して明らかにドル高・新興経済国通貨安がすすんでいる。これは金融危機が深刻化してからさらにアメリカへの資金還流に勢いがついていることの証左である。なにも善意で将来的に衰退決定な国に投資する資本家は存在しないだろう。仮に金融危機以降にドル高(対円以外)が新興経済圏に対して加速化しているということは、金融危機を契機として新興経済圏から資金が引き上げられ、アメリカや日本にその運用先が大きくシフトしていることを意味している。
したがってその資金の流れだけをみれば新興経済圏こそ投資機会開拓の「遅れ」が顕在化し「バブル」が崩壊し、やがてその濃淡はあるにせよ、次第に不況色を強めていくことになるのではないか。G20への新興国の参加は新しいリーダーやオーナー候補の出席ではなく、むしろ実態的には各国の金融危機による深刻度を表現しているぐらいに捉えたほうがいいのではなだろうか?