金融機能強化法改正案雑感

 ろくにまだ考えてないけれども、いくら金融危機への予防を正当化する理論が一部であるからって、とりあえずデフレをとめとかないといかんでしょうが。

 よくある誤解があって、バブル崩壊後の不良債権というのは事実上、96年ぐらいにはもう存在してなかったわけです。それがアジア経済危機や日本のデフレの深化などで97年以降、不良債権が新規発生したいったのです。ここらへんはその昔、野口旭さんとの共著『構造改革論の誤解』に書いてありますので読んでいただければと思います。

 「96年度までの時点で、累積で30兆円を上回る不良債権処理が行われている。他方、96年度までのリスク管理債権の累積は、50兆円を若干上回る程度である。略 96年度のリスク管理債権残高である20兆円強という数字はその差額である。しかし、2000年度中間期におけるリスク管理債権の累積額は100兆円弱であるから、90年代に発生した不良債権の約半分は、97年度以降に生じたものだということがわかる。つまり、現在(2001年のこと…田中注)の不良債権問題の本質とは、バブルの後始末云々ではなく、日本経済が97年の橋本政権時における政策ミスによって引起された未曾有の不況を修復す過程における課題なのである」(106-107)。

 要するに不良債権問題は、ゾンビ企業の延命(追い貸しなど)によって生み出され、それが「失われた10年」(これか現時点からだとすでに失われた18年ほどだが)の原因だ、という人たちがいるが、この不良債権の数字だけをみれば、バブル崩壊での不良債権問題は96年には(新規発生不良債権の額でいえば)事実上かたがついていて経済を拘束する根拠が乏しいということになる。で、不良債権がその後(97年以降)再び激増したのは、経済状況の悪化(橋本失政や日本銀行の事実上の引締め、アジア経済危機という外国からの負のショック)であり、ゾンビ企業バブル崩壊後延命したため新たに不良債権が増加しだしたと考える根拠は乏しい。

 より簡単にこの時期からの教訓を得れば、金融機関がバランスシート上の問題を抱える際には、予防的な資本注入よりも、むしろマクロ経済的なショックを和らげることが大事ではないだろうか? つまりは銀行対策よりも不況対策がより重視されるべきだろう。もちろんその手段は、積極的な金融緩和政策と財政政策のあわせ技なのだが、予防的=即効性でいえば金融政策の転換になる。しかしここに日本銀行の非民主的というより非厚生的態度で相変わらず、世界的には積極的な緩和政策がとられているのに日本だけ滞っていて、それをマスコミも政治も放置したままなのは残念である。

 新銀行東京は、別に金融危機に関係なく、経営のド下手ゆえに引当金不足なのだが、それでも予防的な資本注入が求められるだろう。もしあなたがそんなアホな銀行に自分の税金を投じたくない(そんなアホな銀行に予防的な資本注入は不要)、と考えるならば、まったくといっていいほどコストのかからない金融緩和を日本銀行に望むべきである。日本銀行がやらなければ、政府が金融政策を事実上担うことができる(名目成長率目標+マネーの発行)。