小林慶一郎「経済教室」論説を読む

 ほとんど僕とは真逆の立ち位置なのであえてご紹介。(小林)とあるところが小林氏の主張。→以降はそれに対するコメント。

 (小林)1990年代から2002年代までの不況は「なんらかの構造要因」での消費・投資の低迷→「なんらか」が特定できないのであれば構造要因だか循環的要因だかもわかりません。小林氏はわかるのでしょうか? なお小林氏の上記期間に関する不況論への批判は『構造改革論の誤解』(野口・田中)参照。

 (小林)現在の景気悪化要因は「国内」ではなく「海外」からの供給ショック → 一見するといまの「雰囲気」を体現しているようですが、例えば同じ「経済教室」での高橋洋一論説を思い出してみますと、内閣府景気動向指数をみると06年中の政策的なミス(定率減税の廃止、量的緩和の解除・ゼロ金利解除、政府・日銀の経済見通しの漸次下方修正による市場への誤ったシグナルの継続など)が現状を招いている可能性を示唆しています。もちろん資源・食料高での海外への所得移転が拡大したことは否定しませんが、下にも書きましたがデフレ下での不況の深化を招いたといえるだけです。

 (小林)インフレ+不況のスタグフレーションの可能性 → むしろ国内での上記したデフレ継続(より悪化)に、「海外要因」であ石油・食料品価格の高騰がさらに消費を圧迫した、と考えるのがいいでしょう。教科書的なスタグフレーションではないでしょう。

 (小林)スタグフレーションでの日本経済の説明 → 図表も使われた簡潔な説明ですが、すでに書いたようにスタグフレーションではないとおもいますので、不況を緩和する財政・金融政策を発動してもインフレは激しくはならず、適正なマクロ経済ポリシーミックスによって人々の懐が暖かくなり、供給ショックが一時的・長期的問わず、国民生活を改善していく効果があるでしょう。なお海外からの今回のショックが「全治三年」だそうですが、日本が安定的な名目経済成長率を達成するのにもそれぐらいは最低必要でしょうからこの供給ショックは小林氏の見積もりに乗っても和らげることができるでしょう。

 (小林)資源・食料品の高騰が「半永久的」に続くときは代替エネルギー・代替食料品の開発必要 →異論はありません。

 (小林)資源・食料品の高騰が「一時的」な投機的要因のときは供給構造補正をねらう財政政策(現時点の補助金、将来時点の増税) → 一時的か否かの判定が難しいというのは小林氏の指摘の通りです。ただこの現時点の補助金ー将来時点の増税こそ(話の前提で違うのでやむえない差ですが 笑)まさに「バラマキ」でしょう。

 (小林)「非ケインズ効果」(政府債務が巨額で財政破綻を懸念して財政出動が市場不安・長期金利上昇、景気のさらなる悪化)の存在 → もう財政出動は首相の違いによらず、また政権の違いによらず既成事実ですが、現状で財政破綻を懸念するように長期金利は上昇しているでしょうか?(財政出動が政治的に確定してから下がり基調ですが?) それとも市場は政治記事がある新聞も読まない暢気な雰囲気なのでしょうか。もし100歩譲って(譲る必要はないのですが)そんなに財政破綻が心配ならば、事実上の構造改革とワンセットである埋蔵金の利用を薦めます。

 (小林)賃金上昇してないので、現在の日本は需要不足が再拡大 → ん〜〜! 理解ができなくなったのですが、確か供給ショックでスタグフレーション(インフレ+不況)という話でしたよね? でもいま需要不足が再び拡大していっている???? 

 (小林)「真性のスタグフレーション」を回避するため、労働分配率を上げて家計の取り分を上昇させるために、ミクロの労働政策として労働者(非正規雇用労働者)の賃金交渉力を高める制度改革が必要 → ん〜〜〜! ますますわかんないです。小林氏の説明ですと賃金上昇が製品価格の上昇に転嫁しそれがまた賃金を上昇させると「真性のスタグフレーション」になる、ということですね? でも労働者の賃金交渉力をあげたらその賃上げ分を経営者は製品価格の上昇に転嫁してしまいまさに小林氏のおっしゃる「真性スタグフレーション」になる可能性が強まるのでは? 
 ちなみに僕の方はスタグフレーションは真性も仮性?も関係ないので、需要不足の解消には(労働者の法的対応を伴う交渉力の強化は賛成できませんが、他方で低下も賛成できません、というかそれにはコミットしなくても)所得の増加が大いに貢献すると理解してます。

 (小林)中小企業の保護政策が必要。「セーフティネット融資」など → これについては三日前のエントリー参照ください。

  最後の段落はいままでのまとめと小林氏の展望の繰り返しなので省略します。