昨日の朝日の広告に下記の本の宣伝があったので早速注文しようかと思ったら、関連するエントリーをecon-economeさんがされてました。http://d.hatena.ne.jp/econ-econome/20080519/p1。しかし経済学史学会や日本経済思想史研究会のメーリングリストにもこの小泉信三展(去年では高橋誠一郎展)の案内がなかったように記憶してましてかなり残念ですね。もっと早めに知っていればここでも宣伝できたのですが。僕もいけないんですよね。研修出張しちゃうかな? 笑。
- 作者: 小泉妙
- 出版社/メーカー: 慶應義塾大学出版会
- 発売日: 2008/05/16
- メディア: 単行本
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小泉信三氏に対する評価はまだ日本経済思想史研究でこれといった定評はないのではないか、と思っています。これは同じく慶応義塾出身の経済学者である高橋誠一郎氏に対しても同じでしょうね。この二人に僕がいま研究している福田徳三が大きく影響を与えただけに見過ごすこどができない人たちであることは確かなのです。もっとも高橋誠一郎氏については、数年前に何を思ったのか浮世絵研究とからめて「高橋誠一郎の浮世絵と経済学」という奇妙なものを書きました。いつかここに全文掲載しましょう(スキャナしないといけないので面倒なのです)。
小泉信三の総体的な研究としては、いまのところ事実上ただひとつといってもいいでしょう。
池田幸弘「小泉信三」(『日本の経済思想1』日本経済評論社)
です。この中でも池田氏は「小泉信三について論ずることは難しい」といくつかの側面から意見を述べていますので参照ください。
また伝記としては以下のものがあります。
- 作者: 今村武雄
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1987/12
- メディア: 文庫
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それとテニスと小泉信三という切り口で書かれた面白いものに山口昌男の以下の本『「挫折」の昭和史』があります。一般の方はこの山口さんの本を読まれるのが小泉への関心を持つという意味ではいいかもしれません。
- 作者: 山口昌男
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2005/03/16
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ご本人の書かれたもので今日的観点から読むべきものの筆頭は、天皇陛下へのご教育のベースになったといわれる下記の本ではないでしょうか? 実は奇遇ですが数日前から研究室のデスクにおいてあってちびりちびりと読んでました。霊感でしょうか? 笑
- 作者: 小泉信三
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1989/03
- メディア: ハードカバー
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またそれと並ぶぐらい重要だと思っているのが、小泉信三のジェボンズ研究やピグー研究をベースにした労働・余暇論と震災の経済学ですね。前者は長谷川如是閑、大熊信行との論争がありました。これは今日でも余暇をどのように把握するかをめぐる対立として実に興味深い論争でした。
例えば小泉の説は、彼が訳したW.S.ジェボンズの『経済学の理論』から彼が導き出した「労働苦痛説」というものでした。限界効用均等法則から労働時間(苦痛)を主観的に決定するという意味として大熊は解釈しました。大熊はそれに対して社会的な必要による労働時間、自由時間、睡眠などの配分を考えたのです。後者の大熊の配分原理は後に戦時期の「日本経済学」の主軸のひとつになりますが、それはまたいずれ。なお戦時中の小泉氏への評価については、白井厚氏らの研究が知られています。
後者のピグー研究をベースにしたものは、関東大震災をめぐる福田徳三との小論争でした。これは簡単にいうと、小泉は政府が当時出した「暴利取締令」は利潤の追求を阻害することでかえって民間主導の復興を妨害してしまうという政府批判がありました。それに加えて震災の損害を有体物(建築物などの社会資本)を中心に考えていたのが小泉で、それを福田は震災で失職したものの精神的な損失を考慮すべきだ、という批判を行ったのでした。この論点については小泉も後に福田の批判を受け入れたと思います。この問題は今日的な話題でもあるだけに重要な論争でした。なお両者に比して、当時のマルクス主義者は批判だけしている印象。また後藤新平の復興策がやはり当時の発想を大きく逸脱したものであり、これに福田・修正された小泉の精神的損失へのフォローが組み込まれれば、きわめて先鋭的な大地震の復興策になったのでしょうが両者結実しませんでした。
こう書いていくと僕は一時期、小泉に批判的だったのですが*1、むしろ彼の柔軟性や複眼的な活動はもっと再評価されるべきでしょうね。あと最初の小泉タエさんの本の近くに以下の慶応義塾関連の書籍があり、なるほどわが母校とは風土が違うわな、と感慨にひたりました。でも僕らも早稲田超好きですよ(母校を批判することが母校愛だと伝統的に教わっていたのです、いや、ほんとw)。
- 作者: 島田裕巳
- 出版社/メーカー: 三修社
- 発売日: 2007/10/01
- メディア: 単行本
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