書評:副島隆彦『人類の月面着陸はなかったろう論』in『週刊東洋経済』

週刊東洋経済』に書いた書評。

『人類の月面着陸はなかったろう論』副島隆彦


 「なかったろう論」とは、なかなか味わい深い題名である。人類の月面着陸が確証されれば、副島氏は筆を折るそうだが、その勇猛な決断と本書の「なかったろう」という表現とのギャップは楽しむに値する。ところで人類の月面着陸はアメリカ政府の捏造した国家的陰謀だそうである。この種のアメリカ陰謀説の人気シリーズといえば、評者は落合信彦氏のCIA、KGBモサドなどの陰謀が跋扈する「国際ジャーナリスト」ものを思い出す。副島氏はいってみれば落合氏の正統的な継承者かもしれない(実際には小室直樹氏の弟子のようだが)。その落合氏の陰謀論を批判した論説を収める『「陰謀」大全』(宝島社)で、副島氏がユダヤ陰謀論者を批判的に論じているのに驚いた。副島氏曰く、
 「『○○という事実がありました。これは、皆さんもご存知のとおり○○○○だったのですが、これも実は○○○○がからんでいるのです』、この語り口調はなかなか小気味よい。耳当りがよいのである。そうか、あの事件も、この事件も、やっぱり裏に秘密があったのか。自分もヘンだな、と思っていたのだ(略)いろんな厳しい人生経験を積んでそれなりの生き方をした後でも、人間はこの程度のホラ話に一気にのめり込むことができるのである」。
 なかなかするどいではないか添え爺!(注釈:本書で登場する2ちゃんねる掲示板での副島氏へのニックネームのひとつ)。○○に本書から適当な語句を補うことを読者にはおすすめしたい。
 ところで副島氏は、はじめて月面に降りたアームストロングを背後から撮影しているのはおかしい これこそ捏造の証拠である! と声高である。でもあれは二番目に降りたオルドリンの背中なんだけど(もちろん撮影してるのはアームストロング)。これもなかったろう論?!