本山美彦『金融権力』


 ケインズの不確実性がサブプライム危機に直面する世界経済を覆っている。しかしこの危機は今般のグローバリズムの進展が必然的にもたらした、リスクテイキングの行き過ぎ(投機経済)に基づく。この投機経済のイデオロギー的背景は、ミルトン・フリードマンを中心とするシカゴ学派経済学にある。しかもシカゴ学派経済学はノーベル経済学賞というノーベル賞ならぬ制度によって権威付けられている。この金儲けや投機に走る、「ワシントンコンセンサス」=金融権力の申し子たちをいかに規制するかが課題だ。そのためには生産のため、生活のための金融のあり方が必要である。参考にすべきは、人民銀行、NPO銀行、グラミン銀行、ESOP(従業員持株制度)などである。これらによって「労働によって得られるはずの人間社会の意義」を回復し、「「自由」の美名の下で金融ゲームに走る金融権力」を規制すべきだ‥‥‥以上が本書の主張である。読書に要した時間、約10分。


金融権力―グローバル経済とリスク・ビジネス (岩波新書)

金融権力―グローバル経済とリスク・ビジネス (岩波新書)


 本書には若田部昌澄さんが『経済政策形成の研究』の中で、認知バイアスとして列挙した、1)反市場バイアス:市場で需給関係で価格が決まるのではなく、「儲けよう」とする企業の「強欲」が価格や市場の成果に反映されていると解釈する。2)反外国バイアス:外国との取引からもたらされる利益を過小評価し、むしろ外国との取引が国内経済を不安定化してしまうと理解する傾向があること、3)もの作り・仕事バイアス:「汗水垂らす仕事」が尊く、「雇用への影響」を過大視するバイアス。これは反面で技術革新やダウンサイジングなどを過大に評価する傾向とも結び付く。もちろんバブル経済批判(例として野口悠紀雄『バブルの経済学』参照)にも関連。4)悲観バイアス:文字通り悲観する傾向に思考がバイアス、を念頭にして本書を読むと早く読みこなすことが可能である。

以上。