無我の経済学読書リスト


 ところで上の釈氏の本に関連してですが、そもそも日本経済思想史と宗教的心情との接点は大きく、僕も研究した三木清この本で検討しました)、河上肇はいうまでもなく、例えばかって早稲田大学の経済学史研究の歴史を何気に勉強してまして、そこで二木保幾という人の空観の経済学というものを知りました。これは龍樹の空観に基づき、相対主義の極限みたいなもので、当時来日して日本の知識階層にえらいインパクトを与えたアインシュタインの相対論を世俗的かつ誤解釈して自らの体系に取り込んだ人でした。アインシュタインが当時の知識人(経済学者含む)に与えた影響については以下の本が詳細です。

アインシュタイン・ショック〈2〉日本の文化と思想への衝撃 (岩波現代文庫)

アインシュタイン・ショック〈2〉日本の文化と思想への衝撃 (岩波現代文庫)


 二木は、当時三木清と論争したり、福田徳三に高評価されるなどしましたが若くして亡くなりました。彼の経済学のベースはゴットルといういまではナチスお抱え経済学者と評されもする人ですが、そのゴットルの初期経済学に影響を受けて後に「近代の超克」路線へと繋がる経済思想系列に属していると思われます。


 さてこのような空観の経済思想の系脈はほとんど死滅同然でしたが、日本とフランスでいきな80年代に甦りました。ひとつは平山朝治氏の『ホモ・エコノミクスの解体』(啓明社)。


ホモ・エコノミクスの解体 (啓明選書 (5))

ホモ・エコノミクスの解体 (啓明選書 (5))

 


 もうひとつは「コルムの三角形」などでも有名なサージ・コルムの業績です*1

LE BONHEUR-LIBERTÉ (BOUDDHISME PROFOND ET MODERNITÉ), Presses Universitaires de France, 1982, several re-editions (last: 1994).

L'HOMME PLURIDIMENSIONNEL (BOUDDHISME, MARXISME, PSYCHANALYSE POUR UNE ÉCONOMIE DE L'ESPRIT), éditions Albin-Michel, 1987.

The Buddhist theory of "no-self", in The multiple self, ed. by Jon Elster, Cambridge University Press, Cambridge, 1986, 233-263.


The Multiple Self (Studies in Rationality and Social Change)

The Multiple Self (Studies in Rationality and Social Change)


 最後の英語論文集に収録されているのは、最初の著作の82年版の最終章の英訳。この論文集には他にもいろいろな人の論説が寄稿されていて、最近、邦訳がでた『誘惑される意志』のジョージ・エインズリーの論説も収録されている。

続く

*1:「コルムの三角形」については、西條辰義ほか『入門ミクロ経済学』に詳細な説明があるので参照のこと