ネームバリューでは大差をつけられているが、それでも自分のやっている立ち位置(批判的で、諧謔的、そして憎まれっ子的な点)はやはりこの人に近いのかもしれないなあ、と以前から思っている小汀利得(当時中外新報経済部部長)。彼の代表作の一つである『漫談経済学』(1932年)を読んでいて、いまも昔も変わらないなあ、と思う。以下でいう「低物価政策」とはデフレ政策ないしゼロインフレ政策のこと。また文筆業者や学校の先生は不況の下でも名目所得が切り下がらない人たちという認識であることを注意して以下読まれたい。
B「大抵判ったが、同じ生産でもわれわれのような文筆業者や、学校の先生なんて職業と直接物を生産するものとは大変違ふね」
A「そりゃそうさ。そこで近視眼的に物を見ると、われわれのような種類の生産者が低物価の方が利益なようだが、前にもいつたように、国民経済全体が破綻してサラリーマンや労働者だけが栄えることは絶対に無いからね」
B「最後に一言伺いたいが君達(金本位制)再禁止論者と、再禁止反対論者の物価に対する根本的の差はどこにあったんだね」
A「それがまことに滑稽なんだ。反対論者は初めの間は低物価がいいと盛んに宣伝して居たが物価の低落の程度が深過ぎ、その速度があまりに速すぎて面食らったので、途中から必ずしも物価は安くなくともいいといひ出したたね。但し彼らはいずれじつとして待って居れば、外国の物価が高くなるだろうから、それによって日本の景気を直そうというんだ。だから彼らも景気をよくするためには、ある程度まで物価を高くすることの必要は(あわをくったので)認めたようだ。すると唯方法論の差だね。われわれは自力で物価を回復し、景気をよくし、国民経済を立て直せよといふのであるし、反対論者は他力本願で、待ってたら、アメリカあたりが(サブプライム危機を乗り切り)何とかしてくれるであろうといふんだ」
B「すると低物価政策(デフレ政策ないしゼロインフレ政策)はもう完全に破綻したんだね」
A「そうなんだ」
()内は田中の補
ところで戦前の金本位制再禁止論者(当時でもリフレ、リフレーションという言葉を積極的に用いていたので「リフレ派」といってもいい)にはほとんど専門の経済学者はいなかった(柴田敬、赤松要ら少数)。ほとんどがジャーナリスト、民間エコノミスト、評論家、実業家などであり、彼らはしばしば「経済学者ではなく街角経済学者だ」と反対派(いまでいう清算主義やゾンビ経済論者*1の単純バージョンを信奉する人たち)から中傷・批難されていた。こういう構図は、ネットだけではいまだに特定ブログでたま〜にヒステリックな現象として観察されるのも興味深い。ところでそういうヒステリー現象を逆手にとったのか、営業上手なのか、小汀利得は『街頭経済学』を出版。当時話題をよんだ。面白いことだと思う*2。
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