過去の経済学者の発言を誤用して経済理論は深刻に歪んだか?


 一連のエントリー(ここ)の続き。とりあえず過去の偉大な経済学者を主題にした経済理論はどのくらいあるかを調査。とはいえ機会費用の問題でネットでお気軽にできるということで、Econpapersの検索機能を使用。また総合雑誌、理論系の雑誌に掲載されたもので、なおかつ影響度が高いもの、また90年以降今日までに絞った。


 過去の偉大な経済学者はとりあえず「アダム・スミス、ケインズシュンペーター」の三人。マルクスは問題からいっても今回は除外。またここではでてきたミュルダールは検索で対象範囲にでてこないので削除。対象とした総合雑誌、理論系の雑誌は、略語でいえばAER、JPE、QJE、JET、RES、JEPe、JEL、EJといったところ。


 検索をしたところ。以下の論文が過去の経済学者の発言をもとに理論(あるいは理論的解釈)を構築していると思われる。


①Schumpeter, David Wells, and Creative Destruction
Michael Perelman
Journal of Economic Perspectives, 1995, vol. 9, issue 3, pages 189-97

②Technological Regimes and Schumpeterian Patterns of Innovation
Stefano Breschi (stefano.breschi@unibocconi.it), Franco Malerba (franco.malerba@unibocconi.it) and Luigi Orsenigo
Economic Journal, 2000, vol. 110, issue 463, pages 388-410


③Finance and Growth: Schumpeter Might Be Right
Robert King (rking@bu.edu) and Ross Levine (ross_levine@brown.edu)
The Quarterly Journal of Economics, 1993, vol. 108, issue 3, pages 717-37


④Adam Smith, Behavioral Economist
Nava Ashraf, Colin F. Camerer and George Loewenstein
Journal of Economic Perspectives, 2005, vol. 19, issue 3, pages 131-145

⑤Adam Smith: Critical Theorist?
Keith Tribe
Journal of Economic Literature, 1999, vol. 37, issue 2, pages 609-632


⑥Retrospectives: Say's Law
William Baumol (william.baumol@nyu.edu)
Journal of Economic Perspectives, 1999, vol. 13, issue 1, pages 195-204

⑦Postwar British Economic Growth and the Legacy of Keynes
Thomas Cooley (tcooley@stern.nyu.edu) and Lee Edward Ohanian (ohanian@econ.ucla.edu)
Journal of Political Economy, 1997, vol. 105, issue 3, pages 439-72


 これらの論文が経済学史学会の関東部会での報告の主張・問題意識のように、スミス、ケインズシュンペーターの発言を「誤用」することで経済理論のあり方が深刻に「歪んでいる」かどうかが問題となる。もしそれらの点が認められないあるいは深刻なものではない、ならば先の報告とその元になる書籍の問題意識は再考を求められることになるだろう。もし「誤用」「深刻な歪み」があればそれは考慮に値する問題提起となる。


 なお常識的な観察からいうとこれらの過去の経済学者の発言に基づく経済理論の数はだれもが認める三巨人だけにせよ、たかだか二桁いくかいかないかの数であり、影響力のある専門誌に掲載されている90年から今日までの理論系論文総数に比してあまりにも過小である。上の論文の主張が経済学史の専門性からみて「誤用」であり、「深刻な歪み」を経済理論に与えたか否かは上記論文がまず「誤用」していることを確認した上で、その論文がほかの論文に引用されていることが影響度からいうと重要になる。もちろん二桁いくかいかないかの論文でも重要な論文があり、それが「誤用」している可能性をいまの段階で否定するつもりはないが。


 ほかに主題になっていないが、参考文献であげてなおかつ解釈を論文中で行っているものは別途調査してみたい。