『エコノミスト』を読む、米雇用統計への注目高まる


 今週の『エコノミスト』雑感。久しぶりに立ち読みではなく身銭で購入。サブプライム関連の特集ゆえ。岩井克人氏のドル基軸通貨論はドルの信任下落でのドルの米国還流そしてハイパーインフレという正直よくわからない可能性を示唆したり、ドルとユーロなどが複数の基軸通貨として並存すると各国の経済格差がうまく是正されずに世界的な経済不安を招く、というこれもよく理解できない話。なにかここらへんの岩井理論の丁寧な説明でも他にあるのだろうか? 


 ポール・モルティマリーと河野龍太郎論説が収録。米国の経済成長率の減速を前提に、FRBの中立水準をかなり下回る3.5%までのFFレートの引き下げを予測。ちまたではサブプライムの峠を過ぎたとする見方が濃厚で、FRBが今後利下げをした場合に「バブル再炎」などを懸念するむきがかなり多いが、このモルティマリー・河野論説では、「バブル再炎」を心配するよりも、現状では資産価格の暴落によって公衆の投資態度がリスク回避的に極端にふれている可能性があるので、信用収縮が起きたり、また資金調達コストを上昇させ、消費・投資を冷却し、経済成長率の低下リスクを増してしまというほうがよほどいまは懸念材料である、というのが彼らの主張。つまりこれだけの過度のリスク回避を払拭するために上述の中立水準(4%台前半)を下回る利下げが必要になる、ということになる。


 ところでこの論説では、FRBのFFレート引き下げは、8月の非農業部門雇用者数減少などの雇用統計の悪化が、この利下げ決定の大きな主因となったと分析している。この雇用の悪化が経済成長率のリスク要因の内実というわけである。雇用が悪化すれば賃金上昇が抑制されるのでインフレ懸念も後退する、というFRBの判断があったと河野らの論文は分析している。これは僕にも納得のいく説明である*1。このロジックでいくとFRBの政策を占う上では現地時間の今日に発表される雇用統計の内容が注目されるでしょうね。いわゆるサブプライムの沈静化を、ニュースなどで最近聞く見解のように、単に株式市場や為替市場の堅調・上昇基調をみているだけでは、FRBの政策転換の真意をつかみ損ねる、ということでしょう(バーナンキ理論では資産市場の水準自体はある意味どうでもよく、むしろこの資産市場の変動が成長率、ここでは雇用、にどのように影響を及ぼす可能性があるか否かが政策判断の鍵。その意味で前に紹介したルゴフの市場関係者の智恵を生かす、という提案とは微妙にずれる)。


 あとドル衰退、ユーロ興隆、アジア基軸通貨ぽい志向良し、みたいな発想が根強くありげな論者がこのほか多く寄稿しているような感じですが、正直、読んでません。悪しからず。

*1:ただ雇用の現状での悪化が果たして「将来的」リスクなのかといわれると微妙なのはいうまでもない