竹森俊平サブプライム危機論説in『中央公論』10月号


 竹森先生の主軸はクレジット・パラダイムなわけでして、いわゆる「失われた10年」も不良債権問題が実体経済に結び付いたことが危機を深化させた、だから90年代冒頭に不良債権問題さえきちんと解決してれば大停滞は起きなかった派です。このとき日本銀行の政策は主因というよりも不良債権危機の強力なサポーター的地位になっているという理解だと思います。


 竹森先生の今回のFRB公定歩合引き下げは、「実体経済」と「金融」の問題をわけて(すなわち金融セクターの問題がまだ実体経済に影響を及ぼしていないと見ている)、その「金融」の方面への対処だということです。FRBの文言の解釈では僕は下のエントリーのようにFRBはより金融の側面が実体経済に影響を与えると懸念している、と思います(FRB流のフォワードルッキング政策ともいえましょうか)が、竹森先生は違うようです。ただこの論説を書かれたのはかなり前のはずで現在もサブプライム問題の不安定性はまだまだ底が見えないのが実情ですので、その後の竹森先生の見解の変化もあるかもしれません。竹森先生も資産価格の変動が実体経済に影響を及ぼせば利下げなどの金融政策を発動することを排除するものではない、とはっきり明言しておられます。そしてそのときの対応が迅速であろうことも予測しています。


 さて面白いのは、「ナイトの不確実性」を利用した中盤以降の議論です。「ナイトの不確実性」は過去のデータでは客観的な判断の成り立たない危険性として考えています。サブプライム問題は、当の不動産融資、株式だけでなく新興国への投資、そして日本の長期国債にまでも「ナイトの不確実性」の増加によって影響を与えているといっています。確かに日本の長期国債の利回りは与謝野悪魔くん発言にもかかわらず急下降中で世界に安全資産たるのはどういうことか(おっと脱線。


 「ナイトの不確実性」に基づく「質への逃避」が広範囲に観察され、「円キャリー・トレード」のいわゆる逆流による急激な円高が見られたのである、と竹森先生。


 サブプライム問題本体=不動産融資の格付けが必要だとかいろいろな論点は、本誌を直接ご覧いただくことにして、グリーンスパン前議長時代に住宅「バブル」を招いているその功罪ですとか、米国の消費が冷え込んだらどうFRBは対応するのか、など竹森先生の注視は続きます。


 「ナイトの不確実性」のさらなる研究が必要なんですねえ。難しそうだけども。