ジョン・ケイ『市場の真実』


 市場を複雑系としてみている啓蒙書。例えばミルトン・フリードマンの方法論は「経済がしばしば均衡からはずれ、選択がしばしば不合理であるという批判」を交わす役割を果たしていた、という着眼はするどい(というよりフリードマン自身が明言しているのだが、従来の批判者は主に仮定の非現実性問題に焦点がいってしまう)。そして著者はフリードマンの方法論の弁護とは異なり、実際には経済は不合理な形は多数あり、また不均衡も多数ある、と指摘している。これも一面ではそうだが、フリードマンの方法論はそのような多数の不合理・不均衡が実際の経済問題の解決に役立つか否か、という実践的な選別手段を与えていることまでケイの批判は踏み込んでいるとはいえないのではないか。


 それにしても内容豊富であり、(著者の主張への賛否はさておき)気軽に新古典派経済学の特徴とその限界を一望できる良書であるといえるだろう。


市場の真実―「見えざる手」の謎を解く

市場の真実―「見えざる手」の謎を解く