衆議院財務金融委員会での日本銀行総裁報告:感想


 答弁自体の映像を学期が始まりますとさすがに見る余裕がなく新聞・ネットニュースなどで代替するしかないので不十分ですが、とりあえず日銀の公式文書の以下から、いままでの需給ギャップ問題以外(もちろんこの論点が日銀の公式見解を文字面を追って考えるだけではアルファオメガみたいなものですが)のところで注目すべきところを以下に。



:まず、2月会合までに明らかになった内外の指標や情報をもとに、日
本経済の先行きを展望すると、先ほど述べましたとおり、緩やかな拡大
が続く中で、消費者物価は基調として上昇していくと判断しました。こ
のように、経済・物価情勢の改善が展望できることから、現在の政策金
利水準を維持した場合、金融政策面からの刺激効果は次第に強まってい
くと考えられます。このような状況のもとで、仮に低金利が経済・物価
情勢と離れて長く継続するという期待が定着するような場合には、行き
過ぎた金融・経済活動を通じて資金の流れや資源配分に歪みが生じ、息
の長い成長が阻害される可能性があります。
日本銀行としては、経済・
物価が今後とも望ましい経路を辿っていくためには、この際金利水準の
調整を行うことが適当と判断しました。この措置の後も、極めて緩和的
な金融環境は維持され、中長期的に、物価安定を確保し持続的な成長を
実現していくことに貢献するものと考えています。
日本銀行としては、今後とも、経済・物価情勢の変化に応じて金融政
策を適切に運営し、物価安定のもとでの持続的成長の実現に貢献してい
く所存です:

赤字の第1点は細かいことですが、2月の政策決定会合で一月の現状維持のときに参考になった以外の内外指標や情報で重要だったのは、バックワードルッキングな情報のみでした。

 赤字の第2点は、これは昨日も書いたのですが、いわゆる「金利正常化」が2月の利上げの理由であることがわかります。日銀の考える自然利子率と市場利子率が乖離する可能性があり、これを調整する動きだった、という説明ですが、これはこの説明をみるところフォワードルッキングな話題なのですが、上の第1点にも指摘したようにバックワードルッキングな新データしかあの時点で一月時と異なるものはなく、他は不透明感をました中国・アメリカ市場の各予測があっただけだと私は思っています。深尾先生が以前に表現したように、物価下落リスクが懸念されるなかで、自らのシナリオに固執するあまり、利上げを行うことは「主客転倒」の可能性をもつものである、という批判は妥当することだと思います。


 ところで昨日のBUNTENさんへのコメントでも書きましたが、もし日銀がデフレがすでに終焉し、2〜3年後のインフレ予防*1が重要だとするならば、例えば1月の経済財政諮問会議の席上などでの福井総裁の発言=デフレ脱却とはみなしていない、と解釈できる発言は日銀の「フォワードルッキング」な政策からもまずいと思います。完全に日銀の政策に好意的にみても日銀がここで明示的なデフレ脱却を宣言しないことは市場に与える影響ではマイナスです。というわけで彼らの政策を全面的に受容してさえもその責任逃れは明らかでしょう。

以下は一月29日の同会議の議事録から引用。

:(大田議員) デフレの定義について申し上げておくと、デフレは「持続的に物価が下落する状態」と言っており、これは基本的に終わっている。ただ非常に長く続いたので、本当に後戻りしないかどうか政府としては4つの基準を見ている。生鮮食料品とエネルギー、その他特殊要因を除いたコアコアと呼んでいる物価指数、GDPギャップ、生産1単位当たりの労働コスト、GDPデフレーター、という幾つかの角度で見ている。
日銀は生鮮食品を除いたCPIを一番重視しておられる。若干見方は違うが、大きな枠組み、方向はそれほど違っていない。 (丹羽議員)日銀はデフレ脱却している、内閣府は脱却していない、ということはな
いか。
(大田議員) そこは一緒である。
(福井議員) 格別宣言はしていない。


まあ、これも大田大臣は「まだデフレ脱却していない」認識は政府・日銀同じ、と明確なんですが、ノーマルな感覚の国語能力wだと福井総裁も同じだと理解するのがあたりまえですね。BUNTENさんへの僕のお応えもそのノーマルな感覚に立脚して書いたのですが、しかしこの総裁の発言も「格別宣言」してないだけで、デフレ脱却、と認識している可能性は否定できないとも読めるなあ(苦笑)。


ところでこの一月の議事録をいまみて少し頭が痛いなあ、というのは、一月における中川幹事長の批判*2などでの日銀の利上げ見送り後(この前後に日銀の政策のブレ、リークが顕在化)した後のやりとりがありまして、伊藤先生が次のように釘をさしてました。


:(伊藤議員)第2に、今回の市場の混乱に鑑み、透明性と説明責任の果たし方について、より良い枠組みがないものかお考えいただきたい。例えば各政策委員ではなく日銀として考える物価安定を、もう少し明確にかつ具体的に説明していただいた方が透明性が高まるのではないか、あるいは説明責任が果たされるのではないか、市場との対話でもよろしいのではないか、このように考えるがいかがだろうか。 :

 しかし実際に日銀が行った2月の利上げは一月をはるかにうわまわる高度?なリークでしたorz

*1:シナリオへの固執あるいはフォワードルッキングというよりも理念的な完全予見を単に現実の場で悪用しているとしか思えませんが

*2:もちろん日銀は公式見解でこの理由で現状維持だったなどというはずもないですが、市場ではそう理解していたでしょうね