福井俊彦総裁の破綻した政策哲学


 『週刊東洋経済』の福井総裁ロングインタビュー*1。話題の中心に今般の日銀政策評価を歪めているとしか思えない論点(円キャリートレード)や資産価格の潜在的リスクだとか、各国中銀の先頭に走るとかいう能書きの日銀の政策フレームとしてのフォワードルッキングなど目白押しの話ですが、そういう話は僕には枝葉末節どうでもいいことに思えます。


 なぜなら日銀文学で「ゼロ近傍」といいたいならいえばいいですが、簡単にいってデフレを何年にもわたって放置している現実があるかぎり、日銀は先進国中銀の先頭どころかその最終ランナーの資格さえも危ういのは、誰がみても明白です*2。利上げしようが現状維持だろうが政策手段がなんであれ、デフレを脱却していない現実は同じで、政策目標を達成していません。(年来の国民的課題である)デフレを脱却してから、各種いいたいだけの潜在リスクに熱弁をふるってはいかがでしょうか? 


 それと(総裁がインタビューで強調している)政策目標をインフレ目標だけにしばる話と、(日銀が実際に達成できていない政策の失敗である)デフレを脱却できない話とはまったく次元が違う問題です。インフレ目標だけにしばるのがいやならば、それこそ伸縮的インフレ目標(例えばインフレ率と需給ギャップをなんらかのウェイトで重視する政策)をおススメします*3インフレ目標政策自体を総裁がどう批判しようがある意味でご自由ですが、そのことでデフレを脱却できなかったり、デフレ脱却という政策目標を回避する抗弁にはいささかもならないのは明白です。
 このロングインタビューを読まれた方はその総裁のレトリックにだまされないことが肝心だと僕には思えます。

*1:この時期のこのインタビューに政治色・戦略色を見ないでおくのは難しく、内容とともに釣り?ですか、日本銀行様(笑)

*2:もちろん相変わらずですが国内のマスコミや一部エコノミストたちは異なる電波を発してますが

*3:なお需給ギャップがプラスで潜在的なインフレ過熱リスクなどがあるという日銀の現行のシナリオですが、中期的にせいぜい0.5%の日銀予測にくわえて、需給ギャッププラスなのにインフレ率がマイナスから日銀文学ではない意味でのゼロ近傍にあることは、先のミシュキンの講演での指摘もあるように、その需給ギャップの推計の信頼性が大きく疑われる事態でしょう。なお伸縮的インフレ目標そのものの説明は、例えば岩田規久男飯田泰之『ゼミナール経済政策入門』を参照ください。またいちいち伸縮的とはいってないですが、海外・日本も含めて日本の長期停滞がらみのインフレ目標政策のリフレ派的主張のほぼすべては事実上この伸縮的インフレ目標政策といっていいと思います