『エコノミスト』最新号の論説「失業率と経済成長 構造失業率の誤認しなければ成長率は3%超になっていた」を原田泰さんが書かれています。
景気が悪化しているか、それとも好転しているかは、いろいろな指標をみて判断しなくてはいけない。なかでも重要な経済データのひとつが失業率の動向です。90年代から今日にかけて「完全失業率」は4%から5%の間に高止まりしいます。完全失業率は「労働力人口に占める完全失業者の割合」と定義されるが、完全失業者とは働く意欲をもっている者のうち、いまだ勤め先を見つけ出せない者を指している。
失業がなぜ発生する原因は主にふたつあります。消費や投資などの総需要が不足することで起きる失業(循環的失業)、そしてもうひとつは制度的・社会的な要因で起きる構造的失業です。後者は、求職する人の能力や希望に見合う適職がなかなか発見できないことにともなう摩擦的な失業であるといえます。この種の失業は情報提供の効率化や職業訓練などで解決していく問題でしょう。しかし技能が未熟な若年労働者や中高年労働者の再就職など、この種の構造的失業の抜本的な解決は困難であることが多いのも事実です。ヨーロッパ諸国ではこの構造的失業の水準が高く、なかなか抜本的な対策が見出せないのが現状となっています。
日本の現行の完全失業率は4.1%なのでこの構造失業がどのくらいかを計測することは、マクロ経済政策の効果を考える上できわめて重要になってきます。原田論説は日本の現在の構造失業率が3%をわずかに上回る程度であり、その意味では1%近く現状でも循環的失業が存在するのでマクロ経済政策を積極的に援用する余地があると主張しています。
この点の追求は、中川秀直幹事長らが『上げ潮の時代』などで一貫して主張している日本の構造的失業推計の見直しの要求へとつながっています。なぜなら政府の過去の推計も現在時点4%台が構造的失業と認定しているといえました。特に以前このブログでも指摘しました「竹中平蔵前大臣の罠」といえる日本の潜在成長率の過小評価、そしてそれと密接につながる構造失業率の過大推計は、いまだに政府の経済政策観を拘束しているように思えるからです。
ただ原田論説では、
「政府もかつての構造失業率4%説が誤りであることを「日本経済の進路と選択」(2007年1月18日経済財政諮問会議提出)で認めた。その参考資料によれば、「我が国の潜在成長力を高めるための政策効果が十分に発現されない場合」にも2011年度において失業率は3.4%になり、「発現される場合」には3.1%になるとしている。改革をしなくても失業率は3.4%までは低下するわけだ」
と指摘していまして、政府の認識が私たちからみて「改善」していると評価しています。ここらへんは日本語の綾になってますが 笑 要するに何もしないままの失業率を構造失業率に置き換えているわけです。もっとも私は政府が本当に4%説の誤りを政策に反映する形で認めたかどうかはかなり微妙だと思います。特に会議の主要メンバーの日銀総裁との認識にはかなりずれがあることは確かかもしれません(というかいまの構造改革を日銀が担う、という日銀サイドの理屈からは構造失業率推計の3%、4%の違いなどどうでもいいわけですが (ーー))。
ところでこれもこのブログで何度も私は注意を促しているのですが、やはり構造失業率や潜在成長率などの概念には論争も多いですので、むしろインフレ率を目標に設定して政策を行ったほうが望ましいとはいえるでしょう。もちろんこのような計測は繰り返し行う必要があることはいうまでもありません。ぜひご参照ください。