トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇(続き)


トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇

トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇


昨日の続き。備忘録も兼ねてるのでメモ風味なのはお許しあれ。

宮内と村上の邂逅 →1994年の「日本コーポレート・ガバナンス・フォーラム」。鈴木忠雄(メルシャン元会長&CEO)、大楠泰治(クレディ・スイス・ファーストボストン証券マネージングディレクター)、矢野朝永(企業年金連合会専務理事)との知遇を得る。大楠は村上Fの創業時からのアドバイザー。

村上Fのスキーム…四層構造(アクティビスト、統合アクティビスト、MACジャパン、MAC LP).ケイマン籍のMAC LP自体が幾重もの構造で、最終的に資金はMACジャパンに還流。オリックスMACジャパンの45%株主。社外取締役の派遣

 初亥会(宮内人脈の親睦会)に福井総裁(当時富士通総研)参加。「数少ない「よるべ」でありオアシス」(76)。
この初亥会のメンバーは金融機関出身者が多く、本書ではこれらのメンバーの村上Fへの出資の有無に関心を持っているようである。メンバーは2005年で判明した人だけで52人。本書では列挙しているのだが、私が個人的に興味を引くのは、堺屋太一の存在。日本のエコノミストにもファンが多く、彼の現状のスタグフレーション論にシンパシーをもち、現状で将来時点のインフレを懸念することで日銀の量的緩和解除・ゼロ金利解除を表現のばらつきはあれ支持するエコノミストは多い。いわばこの現状のスタグフレーション懸念派は別様な日銀至上主義支持派の別働隊に事実上なっている。その意味でこの人脈は本書の記述のように福井氏の「数少ない「よるべ」でありオアシス」であるとするならば興味深い人的つながりでもある(かもしれない わからん、ここはみのもんたブラザーズw)。

村上Fへの出資者、出資金の構成などの記述も詳細に描かれている。

第3章 人格偽装  福井総裁ねたに関係なし。全体もつまらない
第4章 縁故投資  村上Fは内向き組織。面白いのは偽名?で活動する総務部長の池田龍哉(村上に最も信頼されているが、出身大学も村上と知り合った経緯、偽名?使用の件などもあり謎の多い人物)、顧問弁護士中島章智が村上の信認厚い人たちだという。

縁故投資の原型としての光通信・クレイフィッシュへの注目

第5章 志・初心 この章は東京スタイルとのプロキシーファイトの話。事実上の敗戦。ただし取材記者団とのコネクションの形成が見て取れる。

第6章 変節  「総裁マネー」の1節あり。内容は総裁・妻の資産と非公開資産の中味。

「福井は「契約書を読んだことがない」と答弁し、「お恥ずかしながらド素人」とまで言って、野党の追及を逃れようとしたが、二月の解約申し入れはこうした「100日ルール」(田中注:解約は解約可能日の100日前まで、中途解約可能なのは6月30日と年末の二回)や「年二回ルール」を知らなければ不可能に近い。「解約を申し入れたが、実際の解約は6月末」とも福井は答弁している。これらの解約ルールを福井が知らないはずがないのだ。ということは、福井は契約書をよんでいることになる」(153)。

 まあ、読んでいるでしょう 笑。これ自体はどうということはない。この引用の後に量的緩和解除の記述が続くが、それよりもこの二月は村上が「ぼくはつかまりません」云々と公言していた時期で、そろそろ村上Fやばめ、と噂されていた時期と符合することを本書では重視しているようだ。

 それといわゆる富裕層マネーの行方としてのプライベートバンキングの未整備の問題が村上Fの存在を許した云々という記述もあるが、これは要検討事項。

第7章 裏の顔〜第9章 虎の尾

 村上話術「「フェアなヒト」というのは「味方」「御しやすい相手」を意味する 略 凡庸な回答をしたときは「何かを隠したい」場合の可能性がある」(167)。これは官僚の話術一般にいえそうなのでメモw。

 村上Fの「グリーンメーラー」ぶりの記述が延々と続く。ここは正直、読んでいくのが若干苦痛。すでに既知の話題が多いのでは?

第10章 魔女狩り

 ライブドア事件の未解決な論点や、国策捜査か否かの議論。後者について記憶に残るのをいくつか。

 大崎貞和氏の「社会的に重要な問題事案を重点的に捜査するというのは、殺人のようにあからさまに個人の人権が侵害されている場合と違い、経済事件では当然のことだ」。ところで大崎氏の『金融構造改革の誤算』をその昔、東洋経済で書評したことがある。マクロ経済論では意見が合わないが、ミクロ的な金融市場論では非常に勉強になったことを書評に書いた記憶がある。また再読してみよう。

 事後チェック型行政に変化したのだから(法廷で争うのがスジ)、経済事件の「グレーゾーン」をあたかも容疑者扱いして騒ぐマスコミの旧態然とした報道が問題、という本書の指摘は考えてみるに値するだろう。

 さて福井総裁関連のいよいよ本書の総括

終章 トリックスター

 福井総裁がなぜ解約(二月)したのか?

「この二月というのは、日銀総裁の福井が解約を申し入れた時期と符合する。「福井の解約の意思が業務執行組合員のオリックスに伝わり、オリックスが解約に動いた」のではなく、「村上ファンド資本提携の解消をオリックスに申し入れ、その情報が業務執行組合のオリックスから福井に伝わった」と考えるのが自然だ」(288)。

 初亥会の宮内ー福井つながりの強さが解約を促したと読めるような記述である。本書全体では福井総裁関連でも村上F関連でもキーは宮内人脈や宮内氏とのつながりということになりそう。『週刊現代』および『週刊ポスト』の頑張りに期待したいw

 昨日も書いてたけれども縁故投資がインサイダー取引に変容する過程を追っていくのが本書の大筋なので、膨大な人的つながりの記述がある。他方で福井総裁関連についてはやはりみのさんワールドの水準から一歩もでることができていない印象が惜しい。ただ私はこの膨大な人的つながりを抑えておくことが、経済政策にかかわる「財界」「政界」「メディア」の評価とどうかかわるのか解読する指標ともなるのでその意味ではまとまって読めるので参考になります田。