マクロ経済学があると仮定しよう!

 運よく東洋経済のランキングにも入っている今年のただ一つの著作『不謹慎な経済学』は、題名からよく比較されているような『ヤバい経済学』とか『まっとうな経済学』とかじゃなくて書いているときから意識しいていたのが野口悠紀雄氏の『超整理日誌』だった。

 その『超整理日誌』のシリーズの中でも、マンガ版のナウシカ論、それに「幻影としてのケインズ経済学」(ケインズ経済学が現実離れしているよ、という主張)という論説、さらに「経済学者とは何者?」というエッセイが興味深い。

 最後のものは、経済学者は常に仮定を好む種族として描かれている。例えば著者とジェフェリー・サックスが箱根にドライブにいったときに、富士山を眺望できる場所にいったらあいにく天気が悪く見えなかったという。そのときサックスが「山があるものと仮定しよう!」と言ったなどと思わず微笑するエピソードや小話が豊富に描かれている。

 そして最近、野口氏はいろんなものを仮定しだしたようだ。

 「日銀引き受けで25兆円支出増」という思考実験――パンドラの箱を開ける   
  http://diamond.jp/series/noguchi_economy/10002/
 100年に1度の危機に、ケインズはよみがえるのか?
 http://diamond.jp/series/noguchi_economy/10001/

しかし、いまわかったことは、有効需要の落ち込みというメカニカルなメカニズムも、規模が大きければ、現実世界に重大な影響を与えるということだ。われわれがいま直面しているのは、マクロ経済モデルで分析できる事態である。

 僕は正直いってこの野口氏の発言は理解できないんだけど、あなたはどうですか?

日本はグローバル化をあまりしてないから軽症??

 「日本はグローバル化に劣るから諸外国と比べて比較的まし」とか「グローバル資本主義の危機で、日本でもグローバル化した企業の方がダメージ」と妄説を信じている人が素人にも専門家(それを本当にプロといっていいのか疑問だが)にも少なからずいます。

 まず「日本はグローバル化に劣るから諸外国と比べて比較的まし」からなんですが、IMFの最新の経済展望の資料をみてくださいhttp://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2008/02/pdf/tables.pdf。2007年までが確定で、金融危機が起きた2008年が推定です。2007年からの最もショックを受けたのは先進国では、米国は実質成長率が2.0%から1.6%、ユーロ圏が2.6%から1.3%へ。その他の経済圏が3.9から2.2へ。そして日本は2.1%から0.7%へで一番減少率が大きいですよね。これでこの「日本はグローバル化に劣るから諸外国と比べて比較的まし」という命題で「比較的まし」が理由如何を問わず誤りである可能性が大きいことがわかるでしょう。

 「グローバル資本主義の危機で、日本でもグローバル化した企業の方がダメージ」ですが、下のホンダ社長の発言を聞くと本当に自動車産業が苦境に思えますが、もっとも現状で手痛い打撃を被っている産業で思い当たるのは、例えばニュースで報道され内定取り消しなどで話題になったのは不動産業や建設業ですよね。この業種ってグローバル化した企業の代表でしたっけ? orz

 もちろんこれからほぼ例外なく不況は等しく日本国民を苦境に立たせるでしょう。例えば業況判断http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/tk/gaiyo/tka0812.pdfをみてください。グローバル産業といっていい電機、自動車でも雇用崩壊といっていい状況が差し迫っているのではないですか?。もちろん非グローバル産業もです。つまり(グローバル化しているか否かではなく)全産業に不況の深刻な影響が及ぶ気配が濃厚です。一気に雇用調整が進むから逆に経済的損失が少なくてすむという楽観論がありますが、それは間違いでしょう。失業すればいままでの日本の経験でいえば長期化し、たとえ景気がよくなってもその経済的損失は長期に及ぶことを十分に学習してきたはずです。今回はいままでの日本だけの長期停滞ほど甘くない(あの時期を甘いということになるとは思わなかったが)予感がして本当に僕は危機感を持っているのです。奇妙でトンデモなグローバル化論に惑わされることのないようにしたいものです。

「不況議員」は誰か?

 下のエントリーのように自動車産業全体がホンダ社長並の危機感(甘すぎる)を持っているとすれば、例えばトヨタなどは労使ともに参院の愛知選挙区にいる日本銀行出身の議員の支援(してないわけはないでしょ?)を拒否すべきではないだろうか。そこまでやれば危機感も本物だろう。

 そのうちくる選挙(衆院どころか次期参院選)のときまでいまのままでは不況を脱出できない可能性が大きい。だとすればその不況の原因を形成している日本銀行(あるいは財務省増税派)の「代弁者」は軒並み選挙という選挙で清算することが国民の厚生にも貢献するのではないか。これが最も政治を動かす手札だろう。

 その種の「不況議員」を教えてくれると嬉しい。僕はあまり政治には詳しくないので。労使ともに企業社会の住人たちはもっとこの種の「不況議員」の選別をしっかりすべきである。もちろん企業社会に属していない人たちにとっても同じ。国民的な関心事にしないと。いつまでたっても不況なのに金利をあげるとか、不況なのに増税に政治生命をかける政治家が絶えない。ちなみに与謝野議員は教えてくれなくても認識している 笑。

 それと選挙区にいるよりまともな人が首相だったりするわけで 笑 選挙制度はこの種の淘汰に効率的ではないのは知っています。だからその種の制度論をここでああだこうだやるのは面倒なことだ。しかし「不況議員」の選別はこれからの世論形成でも必要でしょう。いかがでしょうか?

 と書いて親切に教えてくれるネットではないのでw 自分で調べるかなあ。

ホンダ社長のインタビュー感想

ホンダ、円高続けば正社員削減も…福井社長が言及
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/business/20081220-567-OYT1T00021.html

 福井社長は「1ドル=90円、85円では、とても持ちこたえられない。国内生産はもっと減る」と追加減産の見通しを示した。具体的には、埼玉製作所(埼玉県狭山市)の閉鎖などが検討対象になる考えを示した。人員削減では「非正規社員がゼロになり、その先には正社員もあり得る」と述べた。10年春の新卒採用数は09年より1〜2割減らす考えも明らかにした。

 財界、産業界が経済学の基本中の基本を抑えていれば、いまの経済危機の真因に日本銀行の金融緩和の放棄があることは明白。本当に円高を緩和したいならば、財政政策だけでも、構造改革でも無理。

 猛烈な金融緩和と強力な財政政策の組合せというどの国でも深刻な不況のときにとる政策を財界は真剣に政府に要求すべき。日本銀行に対してはガンガンに批判活動を広報や政治的ロビー活動を通じてすべき。

 このブログにも日経連から最近アクセスがあるのだからどんな人がみているかしらないけれども、日本銀行に超金融緩和(準備への付利放棄、長期国債買いオペの増額、多様な資産の買取りなど日本銀行のバランスシートを急激に膨張させていくこと)を要求しないとぜったいに無理。それと同時に政府にもマネー(政府通貨)の発行を促すようにしなくてはいけない。規模的には20兆円。

 いまの状態で財務省が為替介入してもたかがしれてる。キーは日本銀行のスタンスにあるのだから。暴風雨が去るのを待つだけと思ったら日本にも自動車産業がなくなるかもしれない。ホンダ社長の認識は甘すぎるように思う。

早読み!『週刊東洋経済』2008年ベスト

 自宅に届いたのでいち早く読む。経済・経営書ベストの発表。上半期はベスト10に入った『不謹慎な経済学』は年間では23位にいました。ありがとうございます。名指しで互いに批判しているクー氏の本と同ランクなのも面白いところです。

 ベストの詳細は、もちろん本誌を読まれたほうがいいですが、やはり上半期に上位に来たものは年間では順位を下げますね。僕はうっかり年間なのを忘れてあわてて出したら下半期に出たものが中心になってセレクトしてしまいました。またアンケートの締め切りが今年はかなり早く原田さんたちの本とかいくつもアンケート終了後に読んで感銘した本もありました。ところで一位はたぶんそうなると思ったのですが、竹森さんの『資本主義は嫌いですか?』でした。同誌にある竹森さんのインタビューは必読でしょうね。

一部だけ引用しておきますが、下の引用にある認識には賛成します。

資本主義経済が高い成長を目指し、先進国が社会保障プログラムを維持しようとすれば、必ずしもバブルになるかどうかわかりませんが、高い利潤率をもたらす投資機会が必要です。もう一つの選択は、中国、東アジア、あるいは日本が国内に健全な投資対象を創って、資金を投下することです。これにより、需要が生まれて、余剰資金もなくなります。略 また、冒頭に述べたように公正で透明性の高い金融市場を整備することが資金を呼ぶために不可欠です。

また日本についての認識も同じですね。このブログでも当初から僕がぶつぶついっている、いわばアメリカは早期に景気回復するが、日本の方がより深い不況になる可能性がある、というものです*1

米国はいざとなれば経済刺激策を中途半端で終わらせず、徹底してやります。日本はそうではないので、日本の不況がいちばん長く続く可能性があります

さてほかの順位は同誌をみていただくとして、僕のだけ完全コメントを添えて下に書きます。これは年間というよりも上半期であげたもの以外、として読んでいただいたほうがいいでしょう。

【第1位】
『テロの経済学』/東洋経済新報社

コメント 本書では、テロリストたちの教育水準が非常に高く、また出身階層も裕福であることを示している。テロリストたちは貧しさと教育が不足しているからテロに走ったのではない、実に様々な誘因(組織への使命感、政治的・宗教的信条など)によって行為に及んだのである。きわめて今日的な話題であるテロを考える上できわめて重要な貢献である。

テロの経済学

テロの経済学

【第2位】
『景気ってなんだろう』/筑摩書房

コメント わかりやすい解説と鋭利な分析は、最近出版された経済ものの新書の中では出色の成果である。例えば国際金融危機での金融政策の重要性を、本書は景気問題のキーとして読者に、静かにだが力強く提起している。

景気ってなんだろう (ちくまプリマー新書)

景気ってなんだろう (ちくまプリマー新書)

【第3位】
『格差と希望』/筑摩書房

コメント
格差問題の日本でとりあげられているほぼ主要論点をカバーした便利さと分析の明るさで重宝。政策や価値判断で異なる立場のものが読んでも得るものがある貴重な論争の書でもある。

格差と希望―誰が損をしているか?

格差と希望―誰が損をしているか?

*1:竹森さんは欧州も米国より深刻になるとしていますが、これも僕の周囲のまともな経済学者=アメリカグローバリズムの終焉で覇権交替などと安易にいわない人たち と同じ認識ですね

辰巳ヨシヒロ『劇画漂流』下巻

 待望の下巻。関西(名古屋含む)の貸本マンガ界や劇画工房の黎明と崩壊などが非常によくわかり面白い。もっと続けてもいいんじゃないかなあ、と思ったほど。昭和35年で終りなのは時代を象徴しているんだろうけれども、僕個人としてはその翌年に生まれていただけに自分の感知しえない時期の日本が描かれていて興味を引いた。ところでこの下巻には、アメコミの格闘シーンにおける台詞の多用を反面教師にして、「劇画」のスタイルを考えたという辰巳の当時の試行錯誤が掲載してあり、アメコミから劇画への影響関係を認めることができて面白い。

 今年はあまり日本のマンガに面白いものがなく、なんか小賢しいマンガばかり増えた感じでげんなり。似非の知的マンガみたいなのが多すぎる。個人的には青空大地昆虫探偵ヨシダヨシミ』、青野春秋『俺はまだ本気を出してないだけ』、河合克敏とめはねっ!』なんかが今年読んだマンガの中ではよかった。

劇画漂流 下巻

劇画漂流 下巻