辰巳ヨシヒロ『劇画漂流』下巻

 待望の下巻。関西(名古屋含む)の貸本マンガ界や劇画工房の黎明と崩壊などが非常によくわかり面白い。もっと続けてもいいんじゃないかなあ、と思ったほど。昭和35年で終りなのは時代を象徴しているんだろうけれども、僕個人としてはその翌年に生まれていただけに自分の感知しえない時期の日本が描かれていて興味を引いた。ところでこの下巻には、アメコミの格闘シーンにおける台詞の多用を反面教師にして、「劇画」のスタイルを考えたという辰巳の当時の試行錯誤が掲載してあり、アメコミから劇画への影響関係を認めることができて面白い。

 今年はあまり日本のマンガに面白いものがなく、なんか小賢しいマンガばかり増えた感じでげんなり。似非の知的マンガみたいなのが多すぎる。個人的には青空大地昆虫探偵ヨシダヨシミ』、青野春秋『俺はまだ本気を出してないだけ』、河合克敏とめはねっ!』なんかが今年読んだマンガの中ではよかった。

劇画漂流 下巻

劇画漂流 下巻