連帯労組関西生コン支部(略称 関ナマ、カンナマ)は、最近、トップである武建一容疑者を含め多数の逮捕者を出したことで注目を浴びた。またネットではしばしば辻元清美議員との関係がとりざたされている。
ところで事件報道に興味があるわけではなく、何気なく松尾匡さんのホームページをみていたら、この逮捕への反対行動に賛成を表明していて、カンナマに知的な興味を持った。
http://matsuo-tadasu.ptu.jp/essay__180924.html
また温厚な人柄で国際的にも著名なマルクス経済学者である伊藤誠東京大学名誉教授、そして個人的にはアグリエッタの訳書でお名前を存じあげている斉藤日出治大阪産業大学名誉教授らが、このカンナマの労組モデルを非常に高く評価する論説や発言をしているのも気になったので、いろいろ文献を読んでみた。
たぶん明日には公開されるが、辻元清美議員について批判的に論説を書いた。その下準備もかねていた。
まず通史としては以下の二冊。
関西地区生コン支部 労働運動50年 -その闘いの軌跡 (共生・協同を求めて1965-2015)
- 作者: 「関西地区生コン支部50年誌」編纂委員会
- 出版社/メーカー: 社会評論社
- 発売日: 2015/10/17
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関西生コン産業60年の歩み1953‐2013―大企業との対等取引をめざして協同組合と労働組合の挑戦
- 作者: 「60年史」編集委員会
- 出版社/メーカー: 中小企業組合総合研究所
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それと伊藤誠先生が共同代表をしている『変革のアソシエ』(33号)に「関生型協同運動に期待する」を寄稿している。
また斎藤氏の論説はここで読める。
CiNii 論文 - 競争と分断の共進化から連帯と協同の共進化へ─関西生コンの社会闘争が切り開いた地平
みんな新自由主義批判が大好きである。
さらに武健一容疑者の語り下ろしや獄中書簡?なども読んだ。
『変革のアソシエ』に掲載された「語り下ろし 関生型労働運動とは何か」
獄中よりの新年挨拶/武建一(関生労組委員長) | 月刊コモンズ
また肯定的なものばかりではダメだろうと、まったく真逆な評価をする人たちの論説も読んでみた。代表的には『ジャパニズム』の特集に掲載された記事や論説である。
また関連してだが、大西広慶応大学教授が『季刊経済理論』(55-2)に、なぜ労働者階級は団結するのが難しいのかをテーマにした論説を書いていて、この関西生コン問題とあわせて示唆に富むものだった。なにより大西氏の議論は、ゲーム理論の枠組みを採用ているのでわかりやすい。似た問題意識は、松尾匡さんの『はだかの王様の経済学』の第7章がある。
大西氏はこの論説は、「中小企業に比べて大企業の方が戦闘的労組がなぜ組織しにくいのか」という視点でも非常に参考になる。関西生コンは中小企業の横断的な組合という要素をもち、どうみても戦闘的労組である。関西生コンに限らないだろうが、小規模の運動としての成功と、社会一般の見地からみた成功には大きなずれがある。そのずれを合理的に説明しようとしているのが大西モデルかもしれない。
さらに関西生コンのような労働組合モデルは、ライシュが肯定的に評価する「協調寡占と企業横断型労働組合」モデルと似ているなと思った。このモデルについての批判を辻村江太郎氏が書いていることはこのエントリーにも紹介した。
「みんなのための資本論」と99%のための資本主義 - Economics Lovers Live 田中秀臣のブログ
辻村氏の指摘をまとめると、ライシュモデルはむしろ社会を分断し、仲間内だけのエゴイズムを生み出しやすいというものだ。つまり企業横断的な組合員は自らの組合員だけの利害を考えればいいだけで、それが企業の生産性向上にむずびつかなくてもかまわない、という姿勢を生み出しやすいというものである。大西モデルでの小規模(中小企業の横断型労組をイメージしてみたい)では結託できても、集団が大規模になると結託が難しくなる、というモデルとこの辻村の指摘を結合することができるかどうか、そんなことをいま考えている。
季刊 経済理論 第55巻第2号 現実主義的アプローチから見た経済成長と所得分配
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