いしいさや『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』(講談社)

 Comic NoseとはEconomicsのアナグラムである。Kindle版で日本のマンガを読むようになってしばらくたつが、本作は単行本で購入していろんな人に貸してもよかったかもしれない。

 幼少期から思春期まで、エホバの証人の信者である母親に強く影響され、その信者として生活した少女の物語である。自伝的な要素が全面にでていて、いわゆる新興宗教の信者たちの生活を知らないし、またその考え方も理解できない人には、まるで迷宮の中をさまようような感覚になる世界が描かれている。

 家庭に無関心な父親と潔癖で信心の深い母親、そして宗教的コミュニティと“世俗”の世界両方から疎外されていると感じている少女。ときに児童虐待ではないか? と思うシーンも交えながら、そこには単純な正常・異常、善悪では割り切れない複雑な世界が描かれている。

 絵柄はシンプルなのが、さらにこの世界の複雑さを明示するのに貢献している。優れた作品である。