猪瀬直樹&磯田道史『明治維新で変わらなかった日本の核心』(PHP新書)

 古代、中世、近世そして明治維新(明治の終わりも一部含む)までを、日本の心性、制度、そして天皇を核にして、さらに経済やインフラにも配慮しながら両者が語り合う、実に刺激的な書である。

 特にしばしば現代の問題に立ち返るときの両者の視点は興味深い。来年の皇位継承の儀を憲法違反の疑いがあるという内閣法制局の発言を、両者が徹底的に批判するところは得心がいく。また磯田氏が見つけた天皇の「御爪点」の話はトリビアな歴史を読むことの喜びを読者に与えるだろう。

 猪瀬さんの構造改革的な視点も健在だ。特に江戸時代の武士たちが次第に日本型サラリーマン=日本型官僚ともいうべき存在に堕していく様を解き明かすのは、読者をうならすものがあるだろう。

 江戸時代の経済については、管理通貨制度を背景にした金融政策の確立、事実上の職業選択の自由と労働移動の自由の高まり、全国的なインフラ整備とその生産性への連動、税制の刷新などで、それまでの「宗教卓越国家」から「経済卓越国家」への移動が、江戸時代にほぼ成し遂げられたことがふたりの解説で示されている。明治以降の国家はその延長にあるのだろう。

 細部では異論のあるところもあるが、それよりも両者の博識と卓見を一気に読むことのできる本書は、歴史を単なる遺物ではなく、現代を読み解く手段にしたい人たちにとって最適の道しるべになることだろう。