アラン・H・メルツァー氏が逝去。なんといっても米国中央銀行の包括的な歴史を書いたことで著名。日本ではデフレ論争で、我々リフレ派に近い見解を述べていた(為替レート目標など)。さらにケインズ解釈でも独自の見解を示していて、その翻訳もある。ご冥福をお祈りしたい。
メルツァーのケインズ解釈は、日本でいうと戦前の鬼頭仁三郎が提起したものとほぼ同じである。両者ともに非自発的失業(資源の不完全利用)が存在する安定的な均衡が存在するとし、その原因を不確実性の存在だとみなしていた。この不確実性はメルツァーは対処可能である(鬼頭は解を示さず)。
「私の解釈によれば、『一般理論』の主要な核心は、産出量の変動が民間の行動によっては除去され得ない社会的費用を課すことになるという経済的議論にある。変動性は危険および不確実性の負担に対するプレミアムを課することになり、それが市場利子率を資本の社会的生産性以上に押し上げ、資本ストックを社会的最適水準以下に押しとどめてしまう。それゆいえ非介入主義者の自由放任的諸政策は経済を準最適な位置に閉じ込めてしまう」(『ケインズ貨幣経済論』邦訳19頁)。
メルツァーによれば、『一般理論』における介入政策とは、通常のケインジアンが考えているような、利子率の操作、税率、公共支出の変化を伴うものではない。
むしろ国際的な貨幣改革を含んだ、制度的な改革だった。その制度的改革は投資の安定化に寄与する利子率の安定化や事前のアナウンスメントなどであった。個人的にメルツァーのケインズが提起したとする処方箋はよく理解できないままだった。
いずれにせよ、金融理論の巨人のひとりであった。
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