森永卓郎さんは、時論レベルではほとんど表だって言われていなかった日本銀行批判の口火を切った『日銀不況』(森永さん含め、野口旭さんら参加)で、昔関東軍、今日銀というキャッチフレーズとともに、事実上のリフレ派(デフレを脱却して低インフレで長期停滞に終わりをもたらす考え方)の端緒をひらいた。それまでバラバラに活動したり、または学会・研究会・市井にいた人達を出版物で結び付けることができたその最初の契機である。
私も森永卓郎さんの『日銀不況』の出版的成功を機会にして、そこに猪瀬直樹メールマガジンでの人的つながりなどをステップに、野口旭さんとの共著『構造改革論の誤解』で時論の単行本デビューをしたといっていい。その後もアイドル、サラリーマンものなどで何度も好意的な書評を書いていただいた。その意味ではリフレ派のマスターのひとりである。実は片岡剛士さんの職場の先輩でもあり、また事実上の師匠でもあることもまたあまり知られてはいないが、本当のことである。特に労働問題での分析で両者の影響関係をみることはできると思う。
テレビなどの森永卓郎さんの活動だけをみて判断したり、話題の文脈を切り離して発言の断片だけを消費し、他者を批判するネット特有のどうしようもない人達には理解できないことだろうが、森永卓郎さんのリフレ主義的、庶民目線、雇用重視の視点は、本書でも首尾一貫している。
もともと安倍政権には批判的なのだが、本書ではそのトーンは抑制して、主に財務省の消費増税路線を徹底的にデータを駆使して批判している。冒頭には財務省の消費増税のための公式パンフレットを全文引用して逐語的に批判しているところは特に注目に値する。
日本の財政状況をバランスシートでまずおさえ、さらに現在の日本経済の成長と日銀の政策との関連でおさえる。つまりは財政危機といわれる状況を、ストックとフローの両面から解明し、財務省的な消費増税路線がいかに日本の財政危機という創られた神話を利用している悪質なものかを批判している。
とても勉強になるし、多くの人達は財務省、そのエージェントたち(財界、政界、マスコミ)の悪質な手口を知ることになるだろう。財政危機的状況にはないが、それを経済停滞を本格的に離脱させるためには、消費増税ではなく、減税を行うことで消費を活性化させ、経済成長を安定経路にのせるという主張は正しい。もちろん日銀の金融緩和を維持してのことである。この当たり前の財政と金融の協調路線の理解がないのが、いまの政策論争の不毛な状況である。この点についても本書を読むことで理解が深まるだろう。
消費税は下げられる! 借金1000兆円の大嘘を暴く (角川新書)
- 作者: 森永卓郎
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2017/03/10
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (3件) を見る
- 作者: 森永卓郎
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2001/06
- メディア: 単行本
- クリック: 1回
- この商品を含むブログを見る