セドラチェック『善と悪の経済学』、(セドラチェックのパート)『欲望の資本主義』

 セドラチェックの『善と悪の経済学』はユニークな部分と凡庸な部分が混じった、面白い本だった。ユニークな部分とは、古代メソポタミアの神話群ギルガメッシュや、旧約聖書などの「物語」を、経済行動を解明する“モデル”として利用している、いわば物語の経済学としての側面である。

 バーナード・デ・マンデヴィルとアダム・スミスの対比まではとても面白い解釈が続き、読むものを飽きさせない。だが、話が現代に近づくにつれて失速していく。特に産業革命以降は、よくある反成長主義的なお説教であり、読む必要さえあまり感じない。僕もこの種のお説教経済学を、かなり昔、『アダム・スミスの失敗』という翻訳で世の中に提供したことがある。お説教はお説教にしかすぎず、それで人々の生活はましなものにはならない。

 『欲望の資本主義』は、NHKの番組が契機となった一冊。これもスティグリッツ先生よりもセドラチェックについての発言を読むために購入(したら最近、献本もしていただき感謝)。残念ながら、安田洋祐さんのインタビューでセドラチェックの現代資本主義分析は、反成長主義、国債累増への単純な懐疑、消費の飽和と消費構成の変化のすすめ(お説教)である。これらも日本では河上肇の『貧乏物語』以降、経済学者や世論が好む、経済学「物語」ではある。

善と悪の経済学

善と悪の経済学

欲望の資本主義

欲望の資本主義