水曜に久しぶりに大学に行ったときに頂戴したのを知りました。ありがとうございます。河上肇にはなぜか縁があって、東京河上会の幹事、河上肇賞の審査委員という河上まわりの仕事もよくやっているのですが、不思議と関西に本拠?がある河上肇記念会とは無縁でしたので、今回の雑誌は有り難く拝読させていただきます。
河上肇については、福田徳三関係で興味を持っていますが、河上肇そのものを研究したことはあまりないですね。ただ河上肇の経済学的な最後の立場には興味を持っています。ほとんどは共産党の地下活動に入ったとか、マルクス主義の祖述になったとか、そういう「通説」は耳にするのですが、僕としてはやはり『資本論入門』(1932年)が「最後の河上肇」の立場として気になっています。
河上肇についての研究はかなり多いと思うのですが、この『資本論入門』については(中国共産党の経済観に多大な影響を与えたらしいなど副次的効果が大きいのですが)、あまり学術的研究が進んでいないように思います。いままでの解釈では、降旗節雄氏が『河上肇全集』の月報で、宇野弘蔵らとの対比でその著作の影響関係を分析したこと、その中で『資本論入門』が価値形態論に重点を置いた河上の独自解釈があることを指摘していることなどが、いままで注目されたことでしょうか。
この『資本論入門』に河上肇の経済学における最終的な立場があること、そしてその特徴がマルクスの価値形態論の重視であることなどは、僕には経済学説史的に面白いものです。なぜなら、この本が書かれていたのは20年代後半から30年代始め。つまり昭和金融危機から昭和恐慌にかけての時代でした。
この時代に、河上肇は「金本位制論争」として、石橋湛山と激しい論争を展開しました。ここらへんの両者の論争は若田部昌澄さんが最近、復刊された『昭和恐慌の研究』でも解明していますが、河上は清算主義的、石橋はリフレ主義での対抗としてとらえることが可能でした。
この「金本位制論争」は、河上の経済学の事実上最後の著作である『資本論入門』にも色濃く刻印されていると僕は思っています。それがマルクスの資本論の体系の中で、河上が価値形態論を特別に重視し、そこに彼自らの経済学体系の重心を置こうとしていたのではないか、と思うからです。
ところでこの石橋との論争が、『資本論入門』にも影響を与えていたというのは、資料的にも裏付けることが可能です。『河上肇全集』の続2巻の巻末には『資本論入門』の校異が収録されていて、その単行本の段階では収録を見合した河上による序文があります。そこでは石橋湛山の『東洋経済新報』でのリフレ主義(総需要不足の長期停滞)の発言が長文引用されていて、それに対する河上の貨幣論が対立されています。そして石橋と河上のこの論争を深く知るために、読者にマルクスの資本論を深く読むことを要求しているのです。
単なるマルクスの祖述ではなく、昭和大停滞での問題意識とそこでの論争(特にリフレ派との)が、河上の最後の立場に鮮明に刻印されていることは、もっと注目されるべきことでしょう。この点についてはまだ誰も触れてないので、そのうち河上の『資本論入門』小論という感じで書くかもしれません。まあ、書くことが多くて困るのですが 笑
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