橘木俊詔『子ども格差の経済学』(東洋経済新報社)

 去年読んだが感想を書いてなかったので簡単に。全体としてはあまりいい出来の本ではなく、特に政策的提言が父親の取り組みをもっとすること、家庭学習の時間を増やすこと、塾へ行く時間を減らすために学校内に習熟別クラスを増やすなどの提言があるが、前二者は「人間をかえろ」以上のことはいっておらず、ただの説教である。説教もなんらかの効用があるかもしれないが、それは経済学の役割ではない。最後のひとつは、既存の学校のリソース(教員の払うコストなど)を考えると現状の予算と人員では空想物語でしかない。空想を打ち破るだけの提言は本書には予算面の配慮はない。

 前半のさまざまな統計データはアンケート調査などをベースにしているが、あまり面白いものではなく、率直にいって予備校かなにかの勧誘を読んでいるようだった。申し訳ないがそれが正直な感想である。

 後半、日本が「学歴主義」社会であるかどうかの考察は面白い。学歴社会であるならば家庭や個人がそれに見合うだけの支出と成果がバランスしているので基本政府の介入は必要はない。しかし学歴社会ではなく、なんらかの社会的損失、つまり私的な教育からの便益と社会的な教育からの便益がバランスしていなければ政府の介入の余地がある。橘木氏はその見解を持っている。ここは支持できるが、基本的に東大を頂点とした制度的なものにはほぼノータッチである。東大への重点的な予算配分が過大なのかどうかが検証されるべきかもしれない(膨大な業績があるのでしている可能性が大きい)。

 私立大学や国立大学にいくことで得ることのできる様々な収益率を紹介しているところで、大学への教育投資が十分にペイできることが解説されているところは得心がいく。そして私学助成金が社会的にみて辻褄のあう効率的な制度であるという「意外」な結果がでてきている。

 本書は正直、あまり面白くはないのだが、それでも最近話題の子どもの格差を考えるひとつの参考文献としての意味はあるだろう。

子ども格差の経済学

子ども格差の経済学