2016年の展望を経済と地政学的な観点から論点を提示した論説を、マーティン・フェルドシュタインが書いているのでご紹介。
「2016年の四つの最大の地政学的リスク」
https://www.project-syndicate.org/commentary/geopolitical-risks-to-global-economy-by-martin-feldstein-2015-12
内容を簡単に。経済的なリスク(FRBの10年にわたる低金利政策による資産の誤った価格付け問題、中国の構造的変化による需要の変化、欧州経済の弱体化の持続)があるが、長期の主要リスクは、ロシア、中国、中東、サイバー空間の四つの地政学的リスクだ。
ロシアの地政学的リスク
全世界を射程にできる核保有国。石油価格に依存する経済体質。プーチン政権の緊縮スタンスの採用。クレムリン統制下のメディアを利用しての対外侵攻政策(シリア、ウクライナ)を人気取りに利用。天然ガスを政治的手段をして利用し、東欧・トルコに圧力(トルコはイスラエルからの調達を決めたのでこの手法は限定的)。プーチンの戦略は世界の不確実性の根源。
中国の地政学的リスク
中国は一人当たりGDPだと米国の四分の一で貧しい国だが、他方でGDPそのものは購買力平価で換算すると米国並みであり、これは軍事的な側面、他国の輸出先、海外援助を担保するだけのものになっている。さらにほどほどの成長率を維持していけば米国や欧州よりも成長率も高いだろう。中国は東・南シナ海で軍事的な海洋進出に着手し、日本、ベトナム、フィリピンなどと摩擦を起こしている。中国の人工島の構築など南シナ海進出は「九段線」(wikipediaリンク)に基づく。米国は中国の政策を「接近阻止・領域拒否」(同上)戦略とみなしている。
中国はさらにAIIB、アフリカへの支援、インド洋や中央アジア経由で欧州に至る「一帯一路」(同上)などで地政学的影響を構築している。これらの政策は米国やその同盟国との政治的協調が必要だが、他方で将来の中国指導層が米国とその同盟国を脅かす政策を採用するリスクはある。
中東の地政学的リスク
世界の焦点はISISにむいているが、千年以上におよぶ中東でのイスラム教スンニ派とシーア派との対立が最大の問題。特に焦点はサウジアラビアとイランの対立(参照:NHK時論公論)
サイバー空間の地政学的リスク
国家だけではなく非国家的主体のサイバー犯罪のリスク増大。
以上の四点の展望。