よくあるアベノミクス(のリフレ政策)への反論になってない反論の例:「いまの経済回復はリーマンショック後の世界経済復活のせい」「民主党政権時代から自殺率も低下し失業率も低下していた(のでアベノミクスの成果ではない)」

 表題にあるようなよくある発言を目にしたので簡単に。まず「いまの経済回復はリーマンショック後の世界経済復活のせい」だけど、世界経済の成長率は http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4505.htmlを参照。
リーマンショック(08、09年)の落ち込みの前後六年で比較すると、前は7.4%、後は5.3%である。先ほどのアベノミクスの成果を否定したくてたまらないの理屈でいうと、リーマン前は現状より日本経済はもっといいはずだ。だが、そんなことにはなっていない。なのでこの説はデータもみないで直観で言ってるだけのものだろう。

 次に「民主党政権時代から自殺率も低下していた(のでアベノミクスの成果ではない)」だが、確かに自殺率は低下した。これは民主党政権(のちの安倍政権も継承)の自殺対策が効果を奏した側面があるかもしれない。だがこれもちゃんとデータをみるべきだ。民主党時代の2010年から三年間における平均の自殺者数は2万8300人/年、自殺率は10万人当たり22.4人だったが、安倍政権の2013年から二年間におけるそれらは2万5200人/年、20.1人と大きく改善している。これらの自殺者数の減少は、金融緩和によるものであり、事前に予想されたとおりの効果である」とされている。これは高橋洋一さんの『数字・データ・統計的に正しい日本の針路』 (講談社+α新書)を参照のこと。ちなみに失業率の増減と自殺者数の推移が強い相関関係にあることは、リフレ派の主張だけではなく、広く自殺研究の標準的理解だろう。

 さらに「民主党政権時代から失業率も低下していた(のでアベノミクスの成果ではない)」なのだが、これは片岡剛士さんの主張を参考のこと。この民主党政権時代の失業率の低下を肯定的に評価する人は、雇用を語る資格があるようには思えない。

片岡剛士

2015年の日本経済と経済政策を振り返る

http://synodos.jp/economy/15846

第二次安倍政権と民主党政権における完全失業率の改善要因はまったく異なる。図表4は完全失業率の差の要因分解を行い、第二次安倍政権と民主党政権とを比較したものだが、民主党政権時における完全失業率の改善(−1.1%pt)は、就業者数減少(+0.74%pt)、非労働力人口の増加(−1.62%)、15歳以上人口の減少(−0.22%pt)により生じたものである。いうなれば景気の悪化が進むことで就業者数が減り、非労働力人口が増えることで職を求める人々が労働市場から退出したことがこの時期の失業率改善の理由である。

一方で2012年12月以降の完全失業率の改善は、景気の改善が進むことで職を求める人々が新たに労働市場に参入することで非労働力人口が減り、就業者数が増えたことで生じているということだ。

以上である。そろそろこの種のアベノミクス批判はやめたほうがいいと思う。ポスト真理に近い。