坂井豊貴『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』

 坂井さんから頂戴しました。ありがとうございます。

 名著『社会的選択理論への招待』に書かれていたことをさらにわかりやすく、またルソーや熟議問題などを丁寧に刺激的に考察していてとても勉強になりました。

 twitterで不丁寧な記述のまま書いた感想を放置しててすみませんでした。以下は特に憲法改正について本書を読んで思ったことです。

 憲法改正の発議が国会議員の三分の二というのはかなりよくできた設計だというのが、坂井豊貴さんの『多数決を疑う』(岩波新書)で書かれた丁寧な論理と現実観察から得た僕の帰結。少なくとも単純過半数憲法改正の発議ができるようになるのは、少し論理的思考をすれば相当悪弊が大きいことがわかる。

 坂井さん自身はいまの国会議員発議三分の二は「弱すぎる」として、国民投票での三分の二を求めている。でも僕はむしろいまの制度はよくできてると思ってる。

 いまの自民党憲法改正という流れがどこから起点なのか、坂井さんの本を読むとそれが、いまの憲法を下位の法システムである公職選挙法つまり小選挙区制度が規制しているということにある。坂井さんはここから憲法の改正を要求している。

 僕はそれは現実的なオプションとしては危ういと思う。坂井案は憲法を改正して国民投票による改憲可決ラインを過半数から64%程度まで高めることを要求する。でもいまの日本の政治状況では、この改憲案が採用される気運はゼロだ。

 むしろ小選挙区制を修正する方が望ましいように思える(得票率が高くなくとも地すべり勝利しやすいものではないものにする)。

 少なくともいまの日本の小選挙区制の設計がかなり日本を誤った方向に導いていることがわかった。坂井案が最善だとは思うけど、いまの小選挙区制の下で改憲が行われることと、最も望ましい坂井案が採用される可能性があることは矛盾するんじゃないだろうか(坂井のパラドクス?)。

 現行の選挙制度の改革がまずは、望ましくない憲法改正を防ぐ、現実的な選択肢じゃないだろうか? その上で、いまの議員発議三分の二条項は、最善ではないけど、かなりよくできたルールだと思える。選挙制度の改革で、望ましくない憲法改正を防げるという意味においてだけど(ここ議論はあるよね、当然)。

 そんなことを思った。