坂井豊貴『「決め方」の経済学』

 坂井さんから献本頂きました、ありがとうございます。坂井さんは名著『社会的選択理論への招待』(日本評論社)で個人的にはだいぶお世話になっています。また世間でも高評価されている『多数決を疑う』(岩波新書)では、個人的には村上泰亮の社会的選択理論の概要を知ることができて、経済思想史的な分析にも役立ちました。

 今回の書籍は『多数決を疑う』の姉妹書的な位置にあるとのことで、さらに時論的な色彩が強い内容になっています。特に憲法改正の日本でのハードルが法制度的に思われてるほど高くないことが指摘されているなど、これは前著でも話題になっている問題でしたが再論されています。いまの参議院選挙で多数決や三分の二の意味が問われている中では恰好の教材ですね。

 また本書で最も面白いのは、マンションのエレベーターの改修費用を各階の住民がどのように負担するのか、という現実にも発生した問題(一階住民の負担の問題)が白眉ではないかと思います。シャプレー値や凸結合のとても簡単な説明で、このよくあるけれども論理的には実はあいまいにすませていた論点が明瞭になっています。

 またジョン・スチュワート・ミルの『自由論』の主張とそれに対するセンの「自由主義のパラドクス」は知的な興奮を誘うでしょう。

 ただ個人的には、安保法制への陪審定理の適用には反論がありますので、その点は明日(2016年7月4日)配信予定のiRONNAでふれたいと思います。

「決め方」の経済学―――「みんなの意見のまとめ方」を科学する

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社会的選択理論への招待 : 投票と多数決の科学

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