昨日の日本経済思想史研究会での講演の席上でも直観交えて話したポイントのひとつに、日本におけるクロポトキンの受容の在り方と、その後の戦後の日本国憲法、特に25条(生存権)についての思想的展開。
ちなみに25条は以下。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
○2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
昨日、ちょっと見取り図的に行ったのは、クロポトキンから影響をうけた人達(吉野作造、森戸辰男、住谷悦治)の三者から流れる、25条規定への関連。
吉野作造の方は、佐々木惣一や鈴木義男らの「生活権」規定として、憲法改正案にながれていく。これについては以前、こちらのエントリーでまとめたので参照を。
佐々木惣一の「生活権」と鈴木義男の「生存権導入の貢献」周辺のメモ
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20140531#p1
他方で、森戸辰男の方も高野岩三郎系列の方の憲法改正案として以下のように、雇用・経済・健康との関連が強い生存権規定に流れていく。
憲法草案要綱
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/02/052/052tx.html
一、国民ハ健康ニシテ文化的水準ノ生活ヲ営ム権利ヲ有ス
一、国民ハ休息ノ権利ヲ有ス国家ハ最高八時間労働ノ実施勤労者ニ対スル有給休暇制療養所社交教養機関ノ完備ヲナスヘシ
一、国民ハ老年疾病其ノ他ノ事情ニヨリ労働不能ニ陥リタル場合生活ヲ保証サル権利ヲ有ス
または経済項目の
一、経済生活ハ国民各自ヲシテ人間ニ値スヘキ健全ナル生活ヲ為サシムルヲ目的トシ正義進歩平等ノ原則ニ適合スルヲ要ス
などをみると、森戸たちの憲法草案が、雇用や経済と実に密接に関係していて、要するに経済を制度で支えようという発想の延長で、生存権が考えられている。これは森戸が戦前に訳したルヨ・ブレンターノの『労働者問題』などへの関心が憲法草案にまで及んでいるとみることができるかもしれない。
あと吉野、森戸ラインとは別にクロポトキンから影響をうけた住谷悦治は、戦後の25条の規定には理念的でると否定的な態度をとっていて、これは戦前からの福田徳三の生存権の社会政策などへの批判とまったく視座が同じである。その彼の批判を具体的に支えていたのが、彼流のマルクスの疎外論解釈と、また運動面では部落問題へのかかわりであった。