エンリコ・モレッティ『年収は「住むところ」で決まる』

 だいぶ前に頂戴して何度かTwitterで称賛したのでブログに書いた気になってました(笑)。今年読んだ経済書の中でも、ニーズィー&リスト『その問題、経済学で解決できます』やシーブライト『殺人ザルはいかにして経済に目覚めたか?』と並んで面白かった。世間の評判も高いようです。

 本書は、雇用、都市、産業の三つの領域を結び付けて現代経済学の成果を十全に適用した著作です。イノベーション産業の雇用創出の乗数効果は大きく、またなぜか地域的に一極集中を生み出しやすい。では、なぜ一極集中が生み出されるのか。その都市、地域が持っている労働市場の厚みだ(集積効果)。教育水準の高い労働者が集まり、そこで知的なネットワークを構築していたり、一種の「文化的クラスター」を生み出している。その知的労働・文化的クラスターこそイノベーション産業の豊かな苗床である。しかしそのようなクラスターをどうすれば生み出せるか? 著者の解答は「それはなかなか難しい。でも何もしないよりも(地方)政府も民間もやらないでいたら何にも起きないのだからやるべきだ」というものだ。

「どのような比較優位をもっているかは、それぞれの地域によって異なる。地方政府は、その土地の強みと専門性を活用することを考えなくてはならない。その際、雇用創出のために税金を投入するのは、市場の失敗が放置しがたく、しかも、自律的な産業集積地を築ける可能性が十分にあると判断できる場合に限るべきだ。ただし、地方政治家たちは胆に銘じておく必要がある。なんの手も打たずに地域経済が発展することなどないのだ、と」。

 このモレッティの助言はかなりハードルが高い。おそらく地方政治家は何もしないよりも何かをすることを選ぶだろう。それは彼自身の政治的利害にも結び付く。しかし他方で、モレッティが指摘するような税金投入の条件をそのときの地方政治家たちが守ることができるかどうかはかなり危うい。

 まずは地方政治家たちを中心にした、政策イノベーションこそが大事だということが本書の示唆するところなのかもしれない。

年収は「住むところ」で決まる  雇用とイノベーションの都市経済学

年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学