『すばる』の継続的な読者ではないので、この企画が単発なのか、なんらかしらの継続的な企画の一部なのかは知らない。しかし文芸誌の巻頭に明らかにアイドル論があるということは、アイドル×文学=二重の虚構 という刺激的な挑発ともとれる。実際に中森さんが小説作品やアイドル論、文芸批評などの活動でやっていることは、この虚構世界の「×」(かけあわせ)だ。虚構を何乗もすることで、まったく新しい次元に読者を招待していく。それは「現実」というものを震わせる場合もある。実際に中森さんの『アナと雪の女王』論は、そんな「×」で「現実」を震わせたばかりだ。
このような野心的で未完の試み、中森さんの挑戦の核になっているのは、間違いなく能年玲奈だろう。映画『ホットロード』の公開に合わせての企画になるが、他方でこのインタビューで展開されているのは、「間」の必死ともいえる再現だ。聞き手の中森さんの問いに対して、能年は終始、何度も何度も、時には長いと思われる「間」をとって返答をする。また「間」を超えて、それは沈黙の深みに陥ることもある。中森さんはこの「間」に、能年玲奈の「魔」や「真」をみていき、言葉にしようと苦戦する。「間」と「魔」と「真」の何重もの組合せだ。それを表現できる言葉がなんとわれわれには不足しているのだろうか。
「石原慎太郎はアイドルで、能年玲奈は作家」だ、と中森さんは告げる。能年玲奈の「間」の前に、既存のアイドル論も作家論も崩れ去ろうというのだろうか? しかし冷酷な(?)批評家もいるだろう。実際に僕の周囲にいる女子高校生(笑)は、「能年の心を読み取ってないか、読み取りすぎてるだけ」とこのインタビューににべもない。
しかしそれでいいのじゃないかとも思う。おそらくこのインタビューは、能年の「間」の前に敗北したひとりの作家のエピソードとしても読める。そんな貴重な作品は他にないではないか。敗北は終着ではない。書き手も読み手もこの「間」のもつ何重もの偶像性に魅かれて、さらに「能年玲奈」を思考し続けるだろう。
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