本書は題名だけみると資産運用の入門書のように思えてしまうが、中味は最も最新で信頼できるアベノミクスの2012年から今日までに至る評価を総合的に分析し、またそれをもとに個々人がどのように資産を考えていくべきかを丁寧に議論した本である。
いわゆる「市場関係者」という人たちがいるが、これは特定のメディアが特定で数少ない人たちの意見を総称して言っているだけにすぎない。簡単にいうと「市場」(価格機構)を代表する意見にはまったく思えない。村上さんはこのいわゆる「市場関係者」の中では孤高の位置にあるエコノミストのひとりだ。本書でもとりあげられた2013年の日銀総裁選出の「市場関係者」へのアンケート調査で、ただひとり岩田規久男先生(現在は副総裁)を推していることからもそのことは明瞭だ。
アベノミクスの第一の矢の効果を積極的に評価し、他方で第二の矢(財政政策)と第三の矢(成長戦略)については不十分で、それらの欠陥が消費税増税とともにアベノミクスを不安定化させている、という見立てには僕も大いに賛成だ。
日本のエコノミストにしては極めてまれだが、雇用環境や為替相場、財政状況、そしてインフレ時代の資産の運用までとても包括的に解説していることも本書の利点である。
インフレ時代に自分たちの財産をどう守るのか、そのために知るべき必要最低限でしかも重要な知識を本書は与えてくれる。
- 作者: 村上尚己
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2014/06/20
- メディア: 単行本
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