倉山満『嘘だらけの日韓近現代史』

 「日米」「日中」に続く「嘘だらけシリーズ」の当面の締めくくりになる著作。いつものことだが、日本の教育界や新聞・テレビなどで散見される「通説」(本書では「通説」を便宜的に韓国の歴史教科書に求めている。この対応はわかりやすい)を批判的に、しかもユーモアと皮肉を忘れずに書かれた快著である。特に個人的には、日本の植民地政策の失敗については、かなり面白く考えさせられる内容だった。

 例えば、19世紀後半から20世紀初めにかけての状況で、韓国併合によって初めて日本は「異民族」を抱える「帝国」とならざるをえなくなったが、その植民地運営のコストが割に合わないものだった、ということに尽きる。問題は、植民地運営のコストが割高なので、では朝鮮半島を放棄すべきだったかどうかあるいは無視してスルーすべきだったか、(石橋湛山なら積極的に放棄&スルーを肯定したろうが)そのときの本書で何度か示唆されている地政学的状況をどう判断するか、という論点があるだろう。本書では地政学的状況がかなり重視されている印象がある。また吉野作造についての評価も読めたのが個人的には嬉しい。

 ところで本書で最も重要なのは第七章の終わりから「おわりに」かけての今の日本(と付随的に韓国経済との関連)を扱った箇所だ。消費増税問題を契機にした話題だ。著者の歴史観に異論反論敵視する人もここだけはぜひ読んでほしい。その上でそこから本書を最初から読んでほしいと思う。

嘘だらけの日韓近現代史 (扶桑社新書)

嘘だらけの日韓近現代史 (扶桑社新書)