『ヱヴァンゲリヲンのすべて』

 坂上秋成さんが責任編集している冊子。とても面白い。巻頭の栗山千明氏とのヱヴァ語りは特に、この20代後半のふたりがどう旧作と新劇場版それぞれを消費し、評価していったかを通じて、時代の流れやそのときどきの感性の違いを浮き彫りにしていて興味深い。

 坂上さんのヱヴァ論「「半陰陽ジェンダー」を肯定する、ただそれだけのためにー葛城ミサト論」は、経済学的な課題からいってもこれまた興味深い題材を提供しているだろう。

 20世紀版の方では、ネルフという「極めて家父長制的な共同体」という環境の中で、葛城ミサトは、自らの「性/生」を選択することができなかった。そのためミサトは、「仕事人」「母」「恋人」という3つの役割を、それぞれ男性性と女性性を同時に(=半陰陽ジェンダーとして)こなさなければいけない、危うさ、不安定さに直面し、最後はその(社会的)価値に否定的かつ混乱しながら死んでいくことになる。いわば環境に拘束された選択しかできない存在だ。

 新劇場版では、この女性性、男性性、そして「半陰陽ジェンダー」の三者の社会的役割を、ミサト自身が選択できる可能性が開示されているのではないか、というのが坂上さんの指摘だと思う。このようなアイデンティティを選択することができる余地を、物語に読み込むことで、坂上さんのヱヴァ論は、たとえばアマルティア・センの『アイデンティティに先行する理性』などの議論と親和的であり、興味深い。

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