TOKYO FMの「東京秘密書店」で話した、小泉今日子のエッセイについて。彼女の作品を一度まとめて話してみたいと思っていたので、番組のpodcastを利用して抜き書きしました。なおpodcastにはリンク先をご覧になればわかりますが、小泉今日子のエッセイ以外にも経済書などに言及していますので、利用できるうちにぜひお聴きください。
http://www.tfm.co.jp/bookstore/index.php?itemid=71767&catid=1757
以下は小泉今日子のエッセイについて語った部分。
私がアイドル本で最近一番注目しているのは、「あまちゃん」でも非常に再注目された小泉今日子さんのエッセイ集です。特に2010年に出された『原宿百景』というエッセイがとても面白くて、アイドルというと明るいイメージがあるんですが、彼女のエッセイの場合は、暗いんですよね。どのくらいの暗さかというと、この『原宿百景』の帯に作家のよしもとばななさんが推薦文を寄せているんですが、「キョンキョンのあまりの文のうまさと、あまりの暗さに驚く。底知れない美しい暗さだ」と。まさにこのエッセイの特徴を言い表していると思うのですが、この『原宿百景』に代表される彼女のエッセイは、日常の彼女の身の周りで起こったことを書いてはいるんですが、多くはアイドル以前に厚木で暮らしていたんですが、その厚木というある種閉鎖的で独特な空間と、東京の原宿というところを対比させて、明と暗、それぞれに明と暗があるんですが、それを対比させることで、それぞれの地域の深さを表現している。その地域の深さを表すなかで、その厚木や原宿で暮らしている彼女の身内であるとか、友人、知人、その生と死、出会いや別れ、そういったものを第三者的な視点で書くんですよ。過度に感情移入しちゃうじゃなく、まさに他人事のように淡々と書くんですよ。僕は彼女のエッセイをよんで、ちょっとなにかこうドイツに昔いた哲学者のニーチェ、そのニヒリズム的な感じを思い出したんですよね。なにものも確立した価値は信じないというか、価値の相対性というかね。ちょっと難しい話かもしれませんが、確固とした基準はなくて、自分自身さえも移ろっている。そして生と死というのは絶えず自分の身の回りにあると。書き手のモノの見方というものを非常に相対的に考えているかきてなんですね。それがただ単に元アイドル、いまはかなり活発に活動する女優ですが、そういうアイドル・女優という枠をとっぱらって、小泉今日子の視点というものに、読者の感性を(直接に)ひきつけるという魅力をもっているんじゃないかな、と思いますね。手前味噌ですが、いま「あまちゃん」についての本を何人かの方々と書いてまして、そこで小泉今日子を調べる過程で、そのエッセイが書き手としての素晴らしさに気づきました。実は彼女のエッセイのデビュー作が『微笑物語 ちょっぴり照れた16歳』と、16歳のときに書いたものですが、そこにもさっき言ったような自分の家族の話であるとか、厚木の話とか、そういったものが書いてあるんですが、これは当時のアイドルだということを意識して、非常に明るく書いてはあるんですが、素材はもうすべて揃ってるんですね。それが年を重ねるにつれて、やはり人生の年輪を加えただけ、深く刻み込んだエッセイ集をいっぱい書いていると。本当に面白くてですね、『小泉今日子の半径100m』ですとか、『パンダのanan』ですとか、ひょっとしたら将来、小泉今日子著作集とか全集がでるとか出てもおかしくないくらいの、現代のトップレベルの書き手のひとりですね。まあ、女優の中にはですね、高峰秀子さんであるとかさまざまな優れたエッセイストを輩出しましたが、彼女はその女優エッセイストの山脈の高い峰のひとつにすでになっていると思います。
以下を僕が朗読しました。
「十八歳の時、リッチくんは突然に消えた。車の中で発見されたリッチくんはとてもキレイな顔をしていたという。日暮れの闇に消えてしまいそうだったリッチくんは本当に消えてしまった。たった一人で排気ガスを吸って、ずいぶん時は流れたけれど、リッチくんのお墓に行くといつまでも新しいお花と煙草がお供えしてある。リッチくんはあたし達の青春の記念碑になってくれた。だからあたし達は大人になれた。リッチくん、三軒先より空の上の方がよっぽど近い気がするよ。変なの」(小泉今日子『原宿百景』より)
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