倉山満『嘘だらけの日中近現代史』

 従来の中国に関する「通説」をフルぼっこしながら、皮肉とリアリズムの折り重なった視点から、小気味いいテンポで書いた、日中関係を考える実践書である。とくに歴史や政治分野でなくても、本書で書いている「中国のプロパガンダ」を論じることはタブーか、あるいは「まともな学者」というレッテルを危機にお陥れるのに十分である。

 しかし中国(だけではもちろんない)のプロパガンダ、インテリジェンス活動を抜きにしては、政治も経済も語ることは不可能だ。例えばインテリジェンス研究の一部として、私はこのブログでも言及している占領下の経済論説の分析をしている。本書もそのような歴史とインテリジェンス双方の研究であり、繰り返すが、日中関係を歴史的視点だけで語っていない、まさに現代の理論武装として読むべき本になっていることが本書の特徴だ。

 ちなみに先ほど某雑誌のベスト投票を出版社に送付したが、政治関連の書として本書をここ一年ほどのトップに僕は選んだ。倉山さんの本は、最近刊行された岡田英弘氏の著作集とともに読むとさらに複眼的な中国、アジアを考える際に役だつだろう。