津上俊哉『中国台頭の終焉』

 中国経済の本格的な減速や“金融危機”の懸念が話題になってきている。すでに中国経済については「中所得国の罠」に嵌っている可能性がしばしば指摘されてきた。最近でも関志雄氏の『中国 二つの罠』はその可能性と対処すべき問題を論じた本であった。関氏はそこで「中所得国の罠」と同時に「体制変換の罠」についても論じている。そしてこの「二つの罠」を抜けることの困難を多様な観点から論じている。関氏の本についてはいずれこのブログで改めてとりあげよう。

 私が読んだ中国経済論、特に専門家が書いたもので最も悲観的なシナリオを書いているのが、津上俊哉氏の『中国台頭の終焉』である。津上氏の主張は次の四点である。

1)中国は潜在成長率5%前後の中成長モード*1に入っている。しかしその経路も不安定。
2)リーマンショックに対応した公的投資が過剰。不良債権の温床ともなっている。(短期的問題)
3)中国経済は「ルイスの転換点」(農村から都市への余剰労働力の移動に依存した経済からの脱却ポイント)を通過して、賃金・物価上昇トレンド。(余剰労働に依存しない)生産性をいかに上げていくかが課題。→規制緩和、民営化の進展が「中期」の問題。
4)少子高齢化が急ピッチで進展している、潜在成長率にも影響(長期問題)。

本書の後半は、正直、ほとんど役にたたないが、前半の2)にかかわる論点は参考になる。

リーマンショックにより総需要不足が生じ、中国政府は「4兆元投資」(約57兆円)が実施。都市インフレ、民生関係、環境など、いわば中国版の「国土強靭化」政策が実施された。中央財政が約3割、地方政府が金融借入による残りをファイナンスして投資を行う。これは景気回復には効果。これが空前の設備投資ブームを生み出した。しかし地方政府の資金調達はやがて「不良債権化」し、また非効率な投資がいたるところで行われ(インフレ投資でいえばB/Cを無視した投資の蔓延)、それが中国の潜在成長率を下方屈折させた、というのが津上氏のおおまかな主張である。

 津上氏の中国経済の短期から長期に至る脆弱性とリスク分析は興味深い。ただし金融面・国際金融面についての記述は不十分である。そこは別の文献で補遺ないし修正する必要があるだろう。

中国台頭の終焉 (日経プレミアシリーズ)

中国台頭の終焉 (日経プレミアシリーズ)

*1:上の中所得国の罠とは異なることに注意