津田大介『ウェブで政治を動かす!』

 民主主義をどう刷新していくか、この古くて新しい問題に、インターネットを通じての試みをしようと、津田さんの新しい著作は呼びかける。特にオープンガバメントの動きが本書の主題だ。

 冒頭の章「政治的無関心は何を引き起こすか」では、政府の法案の成立過程、特に審議会を舞台にした利害関係者だけの関心で決まることが、いかに国民の一般的な利益を無視しているかが、記述されている。違法ダウンロード問題や著作権の延長問題など、津田さんの実際の反対運動の「成功」と「失敗」の体験と、そこから何を読み取るべきだったかが明らかにされている。

「審議会がこのようなクローズドな場であるならば、重要なのは、あらゆる議論において透明性が確保され、誰もが情報にアクセスできるオープンガバメントを実現することだ」
「特定業界のロビーイングによって、多くの利害関係者が蚊帳の外状態になり、不透明な形で法律があらぬ方向に変わる……そうした厄介なロビーイングが市民の利害と対立したときに市民側はどのように対抗していけばいいのか」
「“土地勘”のある人間がしっかり審議会での議論をウオッチし、問題点を明確に指摘すれば、政策は変わる(ことがある)」

この文言だけでも本書の問題意識は明らかだろう。

本書のオープンガバメントの論点では、例えば、安倍政権の下で急速に現実味を増してきたネット選挙をめぐるものがあるだろう。本書でも第五章でこの話題が詳細に論じられている。そこでの津田さんの意見はかなり冷静なものだ。特にネット選挙の便益と考えられる若年層の投票率の改善や、また選挙コストの低下などについても慎重に吟味されていて、いままでのスキルだとほとんど改善されないのではないか、というものだ。またソーシャルメディアの利用が政策重視か人格重視かという論点も多角的に論議されていて、例えば政治家の人格をもって有権者が選抜するときのデメリットについても言及している。

特にこれからのオープンガバメントの行方を考えるうえで、本書の中でもっとも刺激的なのは、最終章の事業仕分けライブストリーミング放送と「Gov2.0」エキスポについての話題だ。

前者のニコニコ動画などによる事業仕分けの放送の成果をうけて、津田さんは以下のように書いている。すこし長いが、津田さんの基本的な考えが要約されているので引用しておく。

「インターネット、ソーシャルメディアを通じて政府が持っている大量の情報はさまざまな形で公開されるようになった。加えて、我々は(今はまだ限定的ではあるものの)、メディアたる政治家の情報発信や議論が政策にどう反映されていくのか、その過程をチェックし、情報として共有することができるようになった。政策に関連する情報が可能な限りオープンになり、米大統領選の候補者テレビ討論で行われたような外部の専門家による政策情報に対するリアルタイムなファクトチェックが機能し、国民は政治家や官僚が暴走しないためのリミッターとして機能を果たすーこれこそが、筆者の考える理想的な政策観協だ。オープンガバメントが具現化するにつれて、情報の拡散、共有に優れたソーシャルメディアが担う役割も、より大きくなっていくだろう」(244ー5頁)

この理想的な政策環境を具体的に志向しているのが、Gov2.0(ティム・オライリーの提唱)の動きだ。このエキスポの取材記が最後の部分なのだが、津田さん同様にキャミ―・クロフトの講演の内容が興味を引くものだった。政府機関がオンライン・コミュニティを作る際の原則を語っている部分である。津田さんは日本のニコニコ生放送の事例なども利用しながら、このクロフトの議論を紹介していて実に刺激的だ。また個人的にニコニコ生放送に出る機会が多少ともあるので、「あるある」と頷くことしきりである。特に『ユーザーにパワーを与えること」(ニコ動では批判的なコメントをその場で拾って紹介するこが、コメントが荒れるのを防ぎ、生産的な方向に向かわせる可能性があるなど)や「瞬間的な対応をすること」などである。

ニコニコ生放送に出る人たちはこのクロフトのルールをよく理解しておいたほうがいいかもしれない。また本書では日本がtwitterの先進国であり、潜在的なオープンガバメントの先進国たる資源と素養を保持している国だとの示唆がある。しかし現実は政府サイドの動きは鈍い。だが、津田さんは本書全体を通してそうだが、実に前向きだ。この楽観的な姿勢は、例えば昨日ここで紹介した荻上チキさんの政策論の中にも感じる。その明るさが日本を照らすことを期待する(だけではだめで、僕も頑張ろう 笑。

本書は一度読んだだけでは果実をとりきれないだけ豊かであり、何度か読み直す機会がありそうだ。正真正銘の労作である。

ウェブで政治を動かす! (朝日新書)

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