今まで小沢一郎氏関連の本を読んだことがなかったので気軽に読めそうなこの本を。ウォルフレン氏といえば、『日本/権力構造の謎』の著者で著名である。基本的に日本の官僚システムを中心とした構造的問題が、日本の停滞の原因となっていると考えている構造改革主義者のイメージが強い。
本書では、「人物破壊」character Assassinationという概念を持ち出し、小沢一郎個人を執拗に長期間にわたって胡散臭い理由で攻撃する社会的キャンペーンの特異性を指摘している。
この社会的キャンペーンは、小沢一郎のようなリーダーシップをもつ政治家が、既存の日本のシステムを壊すことを恐れる、官僚、政治家、メディア、そして検察の無意識で、無責任で、中心のない「画策者なき陰謀」によつて行われた、という。
「そして体制の現状維持を危うくする存在であると睨んだ人物に対して、その政治生命を抹殺しようと、日本の検察と大新聞が徒党を組んで展開するキャンペーンもまた、画策者なき陰謀にほかならない。検察や編集者たちがそれにかかわるのは、日本の秩序を維持することこそがみずからの使命だと固く信じているからである。そして政治秩序の維持とは旧来の方式を守ることにほかならない。略 この種の画策者なき陰謀で効果を発揮するツールこそがスキャンダルである。略 だが個々のスキャンダルを仕掛けたのが、実際には誰であったかを特定することはできないのだ」59頁。
このような体制の現状維持を望むからこそ、官僚も検察も自己の無謬性を信奉している。さらにマスコミは体制を変える政策への関心よりも、既存の体制を前提にした派閥の力関係だけに関心がある。確かにマスコミは増税議論もその中身よりも、小沢対反小沢の図式でのみ語る。そこには既存の体制は不変であるという安易な心情があるのかもしれない。
本書では、最後に小沢一郎氏との対談も収録されていて、そこで小沢氏が、ウォルフレンの解釈である、「真のリーダーを必要としながら、それが登場する可能性があると全力で排除しようとする」日本の既存の反応の仕方に賛意を示しているところに興味をひかれた。
ただし本書を通して、小沢一郎氏が実際にどのように既存の日本のシステムを変えようとしているのかまったく空洞のままであり、それに対応してウォルフレンの小沢一郎氏の政策の「何が」体制維持にとって脅威なのかわからないままである。
またウォルフレンは米国の対中国外交が敵視政策であり、それは賢明ではないと説く。そして小沢氏の対中国外交はバランスのとれたものであり、同時に対米国外交も重視するものだとする。ここらへんは議論を招くところだろう。
- 作者: カレル・ヴァン・ウォルフレン,井上実
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/03/24
- メディア: 文庫
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