アーチャン・チャー『手放す生き方』

 訳者の星飛雄馬さんから頂戴しました。感想が遅れてすみませんでした。サンガ文庫の第一陣の一冊ですね。アーチャン・チャーはタイの名僧として知られ、本書は欧米の弟子たちが生前の彼の言動を記した一書で、とても読みやすい内容です。本文でも説明をしてくれてますが、キーワードは巻末に別についてもいて。これを随時参照していけば、仏教の基本的な知識も身について便利です。

 星さんからのアドバイスでもありますが、本書は最後の弟子との問答のところから読むといいのではないでしょうか。アーチャン・チャーの教えというのは、仏教を学んだり、仏教徒でなくとも、現実の今の生活に役立つキーポイントに満ちていると思いますよ。なんといっても「三毒」と三位一体になっている僕が言うのですから間違いありません 笑。

 本書でチャーが何度も繰り返している教えは、「修行とは何かを獲得しようとするために行うものではない。ただ、生じていることに対して気がつくことだ。わしらの行う瞑想はすべて、心を直接観察することなのだ……他人を観察することは、修行にとって害だ。区別をしてはいかん。…心を観察せよ。そうすれば、必ずや、この修行はおまえさんを利己的ではない、平安な境地へ導いてくれることじゃろう」(259-60頁)というものです。

 他者との比較が、例えば過剰な消費生活をもたらし、それが現代人の孤独を生み出してしまう。それを避けるためには、旅に出よ。旅は遠隔地や広大な風景をみることによっても実現できるが、部屋の中を旅行することによっても実現できる。心の旅=執着することからの離脱を説いたアラン・ド・ボトンの『旅する哲学』やロバート・フランクの消費理論との関連を思い出すと、本書の位置を経済学からみることもできるでしょう。

手放す生き方(サンガ文庫)

手放す生き方(サンガ文庫)