高月靖『韓国芸能界裏物語 K-POPからセックス接待まで…禁断の事件簿』

 高月氏は着眼点と内容がとても面白いライターのひとりだ。『南極一号伝説 ダッチワイフの戦後史』はこの分野の“古典的名著”の位置にあるし、また『ロリコン』も日本のロリコン史という誰かがやっていてもおかしくないのに誰もまとめて解明していなかった分野をクリアに描いた好著だ。僕はてっきり高月氏はそういうサブカル系「だけ」に強いライターだと思ったが、この本で韓国の芸能界、そして社会、ネットの動向にきわめて深い見識と観察眼をもっていることが(僕が知らなかっただけなのだが)わかった。本書は特に、韓国芸能界のスターシステム、広告、契約形態やマネージメントの内実を具体的な数字を提示しながら書いていることもあり、一種の韓国経済の裏面史としても読むことができる。

 最近、K-POPや韓流ドラマが日本で過剰に喧伝されていると一部で批判を浴びているが、本書を読むと海外、特に最大の市場である日本に攻勢をかけないでは、韓国のアイドルたちの暮らしがなりたちにくくなっているK-POP業界の台所事情もよくわかる。なんといっても芸能人(特に歌手とモデル)の平均年収がかなりのスピードで低下していることもそれを裏付ける。日本と韓国で短期的な労働移動が可能であるならば、期待所得の大きい国(現在は日本)に来たがるのは当然ともいえる。ましてや韓国国内でのアイドルの期待所得がどんどん低下しているならば、日韓の格差はより開いていく。日本市場の魅力が韓国アイドルにとってはとても大きいものに見えるだろう。

 ところで日本ではかなり目立つKARAだが、彼女たちが日本で売り上げたCDとDVDの金額は13億円だという。かなり巨額なようだが、この頁によれば日本のCDとDVDなどの売上は約2800億円なので、KARAは約0.5%程度の売り上げである。K-POP全体のウェイトはわからないが、どのくらいなのか興味があるところだ。 

KaraのCMやイベント、テレビ出演などでの露出時間やその事務所への支払いを含めた経済的な総収入までは本書はふれていない。ただCMやイベント、テレビなどの出演料が事務所サイドの主張ではKaraの一人あたり2100万円、総計1億円超であるという。これは多額ではないだろうか。

このプレジデントロイターの記事を参照してみよう。

ようやくCM契約を複数持ち、連続ドラマの主演・準主演を果たすようになれば、基本月給は300万円の域に達する。これで年収3000万〜4000万円のレベルだ。07年度の一般企業社長の平均年収は3100万円(企業福祉・共済総合研究所調べ)。当然、中小企業の経営者からは「そんなにもらっていない」という声が上がってこよう。すると連ドラ主演級の大物タレントは年収面で上場・大手企業の社長クラスと推測できる。

 とある。KARAの事務所サイドの発言をそのまま信じるとすれば、KARA五人での日本デビューまもないアイドルにしては日本の主演級2.5人分を稼いでいることになり、彼女たちがCDやDVDよりもCMやイベントで日本で稼いでいることがわかる。彼女たちが日本で「目立つ」のはライブやCM、テレビなどで、ということになりそうだ。ただ注意すべきは、仮に彼女たちの総所得をすべてテレビ出演からのものだ、と仮定しても、上記のフジテレビが支払っている出演料総額の700分の一程度である。

 韓国のアイドルとそのファン層が日本のように「素人芸」的要素に価値をあまり見出さないというのはよくいわれてきた。本書でも長期にわたるアイドル候補育成への投資、それを短期間で回収しようとする業界のやり方がかかれている。また日本よりも韓国の方が芸能人の自殺も多いが、それは社会全体も多いからであり、アジア経済危機以降にそのような現象が加速しているという指摘もあり興味深い。

 韓国の芸能界のみならず韓国の経済や社会に関心がある人には一読をお勧めしたい快著だ。