石破茂氏の「インフレ目標でハイパーインフレ懸念」論

 石破茂議員が自民党総裁選に出るのではないか、というニュースをみて、彼のデフレ問題へのスタンスを調べてみることにしました。

 表題の件ははじめネットの冗談かと思ったのですが、ロイターでのインタビューに2年ほど前に答えたときのものなんですね。

http://jp.reuters.com/article/JPbusinessmarket/idJPJAPAN-16327220100716

 ──みんなの党が日銀法改正を含めたデフレ脱却法案を提出するが。

 「わたしはああいう考え方をとらない。マネーのバラマキは効果的かもしれないが、1年限りで終わるものでなく、2年、3年、4年と続ける必要があり、そのときハイパーインフレにならないという自信がない。麻薬を打つと元気になるが中毒になる前に止めるからいい、という話にならないか。(デフレ脱却法案への反対は)党としてまとまっている。うまくいくかもしれないが、ギャンブルではないのだから(政策として採れない)」

 ──自民党内にもリフレ派の議員がいる。

 「(リフレ派論客の)自民党山本幸三氏やみんなの党渡辺喜美代表とかのもっともらしい話が、実は違うということを理論的に明らかにしないといけない。今その作業をやっている。どちらかというと産業政策に近い内容。塩崎さんが中心にまとめている」

 インフレ目標がただ単にお金を無制限に何年もばらまく政策であると盲信しているのが面白いところです。またその代案が、日本銀行がずっと主力においている産業政策的なものですか。産業政策は日本ではだいたい衰退産業保護の別名か、ただの官僚たちのお気に入りの分野への無駄打ちか、あるいはいまの日本銀行のように「資金需要がないので伸びない分野」の別名です。最後はデフレ期待が蔓延しているのであたりまえですが。

 ちなみにどの国でもインフレ目標を導入してハイパーインフレになった国はありません。

 ただこのインタビューは二年前で、FRBインフレ目標を採用している現在、石破氏の見解も変わっていると思いますし、どうも前後を読んでも経済政策に確固たる方針があるようにも思えず、むしろそのときの政治的な利害でとる政策が変わっているだけのように思えます。上だとみんなの党対策でしょうか。

最近のブログを読んだのですが、ごくありきたりの政策主張が並ぶだけです。この手の人は麻生首相のときもそうですが、最初に何を経済政策でいうかでほぼ勝負は決まります(麻生首相の時は財政政策だけ、福田首相はなにもなしなど)。今現在だと日銀との連携をいっているので月並みですが、その範囲での認識はあるのでしょう。大胆な経済政策の転換は望めなく、おそらく彼が勝負をかけるのは別の政策でしょう。そしてそれのために経済政策がなおざりに(だいたいの人はそういうつもりはないでしょうが)なることでしょうね。期待はあんまりできないということです。可能性としては経済政策の助言者が優れている人をひきあてればですが、だいたいのこのタイプの政治家さんは昔からの官僚か官僚出身者のアドバイスしか聴かないで育ってきてるのではないかと懸念しています。その官僚の代表が経済政策では、財務官僚や日本銀行です。

石破茂ブログより:http://ishiba-shigeru.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-af2b.html 

我々は、消費税率引き上げが可能となる環境とは何か、そのためには供給サイドの改革と、政府・日銀の更なる連携の強化による適切な金融緩和、各種規制緩和の具体策を提示するとともに、負担力に応じた社会保障の改革などを具体的に提示する必要があります。
 その他エネルギー政策、TPPの必須前提条件農政改革、日本にできることは日本が行うことを基本とする安全保障政策などを、解散・総選挙を訴えるからにはもうそろそろ纏める時期となっています。

なお、政府のいう産業政策の内実については、長谷川幸洋さんの以下の『日本国の正体』での発言が適切でしょう。

霞が関が「新政策」を立案するとする。日本の産業をざっと見渡して、なにがこれから発展するかを考える。先に「民間以上に、政府が有望産業を見極める正しい情報をもっていると考える根拠な乏しい」と述べたように、「政府が正しく判断できる」という前提自体が怪しいのだが、説明を続けよう。例えば、政府が有望と見る産業は少し前までは4つあった。「情報通信(IT)]「環境」「バイオ」「ナノ」である。これらの産業はいずれも新時代を先取りしていて、そこが伸びれば、日本経済にも輝かしい未来が待っていると考えられた。すると、官僚はそうした産業の業界団体をつくる。「政府としては、みなさんの産業を支援する。ついては、みなさんが業界団体をつくって、政府に要望を出してほしい。そうすれば、そこを窓口に相談したい」というように。業界団体ができると、財団法人や社団法人化を目指す。あるいは任意団体でもかまわない。そこで「できれば、我が省のOBを専務理事で迎えてもらえればありがたい」ともちかける。うまく成功すれば、天下りポストが一つ増える。これが「専務理事政策」だ。話はこれだけでは終わらない。次は基準認証づくりが控えている。「みなさんの産業分野は新しく、統一した規格がない。そこで基準認証制度をつくって統一規格にすれば、相互に利用しやすく、産業全体としても発展する」ともちかける。うまくいって基準認証ができれば、規格試験を実施し、試験料を徴収する。毎年決まった試験料が入るようになれば、しめたものだ。これが専務理事の人件費に化けたりする。ここまで「新産業の育成」に成功すれば、舞台回しして官僚は「金メダル」をとったも同然だ。「局長までは間違いなし」の出世の階段の切符を握ったと言える」。

 このデフレ脱却=産業政策的なもの、を二年前から「本音」で石破氏が持ち続けているとちょっと希望がもてない方に僕には思えますね。いまの微恩風な政策態度もそうですけど。

なお、一般的な産業政策の説明は以下のエントリーを参照。

産業政策とは何か(岩田規久男・飯田泰之『ゼミナール経済政策入門からのメモ)