いつもそうなんですが、トークイベントの前には「勉強」をしておきます。特に今回は、はじめて組む方も多くその方々の著作も代表的なものは読んでおくのは無論なのですが、テーマも告知の文章にあった「憲法、国防、外交領土、歴史観、民主主義、そして原発」という広汎で、なおかつ僕自身の専門とかなりかけ離れた分野が多く、自分なりにかなり時間をかけて準備しました。ただいつものことなので毎回そんなことブログでも書かないのですが、今回はネットで読める文献も多いのでちょっとその紹介をかねて以下にメモします。
憲法関係……経済学と憲法の関係を意識して次の文献を読んでおきました。常木淳氏の論説はかなり面白く視野がひらけた思いがしました。また常木論文をもとにした討論の記録も、特に最後にある生存権の問題をどう経済学者と法学者が接点を見出しているのかが興味深い。そして浜田宏一先生の憲法をめぐる経済的帰結のゲーム論を利用した分析も興味深いですね。簡単にいうと冷戦構造では大国の軍事力ネットワークという「公共財」に小国(日本など)がフリーライダーできたという「戦略的代替」だったが、冷戦以後は軍拡競争の可能性を秘めた国家プレイヤー同士の「戦略的補完」が強まっているという解釈です。
常木淳「経済学の憲法適合性途方政策分析への適用可能性に関する考察」
常木淳「法政策分析の憲法的基礎」
常木報告をめぐる質疑応答
浜田宏一「日本の平和憲法の経済的帰結」
国防関係…浜田論文も関係しているのですが、今回のイベントを意識して読んだのが、桜林美佐氏の『誰も語らなかった防衛産業』ですね。この本はまた改めて紹介したいですが、日本の防衛産業を支えているのは中小企業であり、そしてそれゆえにいまのデフレ円高はこの業種を直撃しています。まさにデフレが日本の防衛も苦境に陥れているとこの本を読みながら思いました(特に桜林氏が経済分析をしているわけではないのですが僕の応用です)。イベントでもこの点についてふれましたが、他方で書名を言えなかったのですが以下のサビーネ・フリューシュトゥック氏の自衛隊におけるサブカルチャーの影響に関する分析は面白い。
サビーネ・フリューシュトゥック『不安な兵士たち ニッポン自衛隊研究』
桜林美佐『誰も語らなかった防衛産業』
外交領土……まさに現時点での竹島、尖閣諸島などの領土問題を経済学的にどう考えるか。特になぜ領土紛争が起きるのか、その条件を以下の文献は教えてくれました。超意訳すると、日本が他国に対する防衛力や資本の生産性の点で格差が開いてしまうと紛争可能性が高まる、つまりはデフレで長期停滞が続けば経済力、防衛力の低下とともにその点で格差が広がっている他国から紛争に持ち込まれる隙が生じてくるというわけです。その意味からもデフレ脱却は日本の領土問題についても少なくとも紛争抑制のために必要です。また経済制裁等がネットで話題になりましたが、以下のHufbauer et alの本は便利ですよ。
以下の文献を読みました。
芹田健太郎『日本の領土』
山本皓一『日本人が行けない日本領土』
東良彰「領有権をめぐる紛争と生産性格差」
G.C.Hufbauer et al Economic Sanctions Reconsidered
歴史観……歴史観については以下の本を再読しました。前者については、今日ほかのエントリーで書いたのでそれを参照ください。また靖国問題については、僕も『不謹慎な経済学』に「右の左翼論」ということを書いたのですが、今回のトークイベントのために三土修平さんが書いた『頭を冷やすための靖国問題』を読みました。とてもいい本です。
アメリカ合衆国戦略爆撃調査団『日本戦争経済の崩壊』
三土修平『頭を冷やすための靖国問題』
民主主義……トークイベントにそなえて読んだものは簡単な以下の資料です。
八田達夫「政治家と官僚の役割分担」
原発……昨日のトークイベントでも最初かなり熱く語られたものです。原発の経済コスト面からの非効率性、それを担保してしまった国策としても民営(社債発行での暗黙の政府保証⇒原発を維持できる根元)、そして我妻栄と大蔵省との原発災害時での賠償法をめぐる攻防などが興味深く書かれていてかなり参考になるのが以下の本です。また八田論説は原発問題を経済学の視点から簡潔に整理していてこれも頭の中でよく理解しておくべき諸論点だと思います。
竹森俊平『国策民営の罠』
八田達夫「視点2 原子力発電の費用と便益」
他には竹島問題が浮上していたので、韓国の経済関係の論文を読みましたが読み終わる前にトークイベント突入でしたw だいたい今回のトークイベントにそなえて読んでおいたものは以上です。ご参考になれば幸いです。

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